NHKの大河ドラマといえば、50年以上も続く、壮大な歴史ドラマとして親しまれている存在です。近年ではほとんどのドラマが1クール(3カ月)で終わってしまう中、1年通して作りこむ手法はNHKにしかできない芸当と言えます。

ところが、そんな大河にも迷走の時代がありました。

放送期間は半年 沖縄舞台の『琉球の風』


1993年1月から放送された『琉球の風』は、戦国時代から徳川時代にかけての沖縄・琉球王朝を舞台に描くという、それまでの大河にはない極めてローカル色の強い異色作でした。
どう描くのかという期待もありましたが、さすがにこれを1年通すことは厳しいと判断されたのか、大河史上初となる1~6月までの半年間という異例の編成が組まれたのです。

また、『琉球の風』はこれ以外にも従来の大河とは違う異例なことがありました。まず、主人公の啓泰(けいたい)を始め主な登場人物はほとんどが架空の人物だったということ。
そしてオープニング曲を、それまでのNHK交響楽団などによるインストゥルメンタル主体のものではなく、谷村新司が歌う「階ーきざはしー」を採用したこと。近年の大河ドラマのOPでは歌詞を入れる例が少なくありませんが、『琉球の風』はその先駆だったといえます。


年またぎだった『炎立つ』


『琉球の風』に続いて1993年7月スタートとなったのは『炎立つ』。平安時代後期の奥州藤原氏の盛衰を描いた作品で、これまたローカル色の強いものとなりました。放送期間は7月から翌1994年3月までと、なんと大河ドラマ史上唯一の年末年始をまたぐ作品として歴史に刻まれることになります。
物語は3部構成で、奥州藤原氏の開祖が活躍するところから源頼朝により藤原氏が滅ぶまでの約150年にも及ぶ超壮大なストーリー。これほどの長いスパンを描いた大河も空前絶後です。
半年しか放送せず NHK大河ドラマの迷走時代を振り返ろう

主役は、第1部と第3部が渡辺謙、第2部は村上弘明。特に渡辺謙は、1986年の大ヒット作『独眼竜政宗』以来2度目の大河ドラマの主役であり、舞台も東北と『独眼竜政宗』に対するオマージュが強く意識された作品となりました。

しかし、この作品の歴史背景も極めて玄人好みだったことや、原作者と脚本家との意思疎通の悪さが露見するなどのトラブルがあったことが影響し、平均視聴率は17%と低迷してしまいました。

史上最低視聴率だった『花の乱』


迷走はさらに続きます。1994年4月から始まった『花の乱』は、室町中期というこれまた歴史的にマニアックな時代を取り上げた作品でした。
主人公は戦国時代突入のきっかけとなった日野富子。同年12月までの9カ月間の平均視聴率は14.1%と大河ドラマ最低の数字を出すに至ってしまいました。
半年しか放送せず NHK大河ドラマの迷走時代を振り返ろう

その要因は先の2作同様、馴染みの薄いテーマだったことに加え、三田佳子演じる日野富子の描写が極めて難解で、多くの視聴者がついていけなくなってしまったことが大きいといえるでしょう。
世阿弥の能や狂言を意識した世界を多く描いており、一般受けが求められる大河ドラマにあっては違和感を拭えませんでした。


囁かれた大河打ち切り説、救世主は"暴れん坊将軍"?


こうして丸2年、NHKが挑んだ大河での冒険は結果として大失敗でした。そのため、存続の危機さえ囁かれた大河ドラマではありましたが、1995年、従来の方式に戻して1月から12月までの放送となった西田敏行主演の『八代将軍吉宗』は平均視聴率は26.4%とV字回復! こうして大河ドラマ迷走時代は終わりを告げたのです。
(足立謙二)
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