『シコふんじゃった。』(相撲)、『Shall we ダンス?』(社交ダンス)、『ピンポン』(卓球)、『書道ガールズ!! わたしたちの甲子園』(書道パフォーマンス)、『ちはやふる』(競技カルタ)など……。


上記のようないわゆる「マイナースポーツ」を題材にした映画は、これまで幾度となく制作されてきました。それは、競技が持つ魅力を正面きって描きさえすれば、それである程度作品が成立してしまうからです。
サッカーや野球などのメジャーな競技だと、一般的に魅力が十分認知されていて新鮮さがないため、こうもいきません。なので、サッカーなら『かにゴールキーパー』、野球なら『バンクーバーの朝日』(カナダに実在した日系人野球チームの話)といったように、何らかの「引き」がないと、世間の関心を得ることは出来ないのです。
その点、マイナースポーツ映画では、入念な取材と研究こそ必須であるものの、特殊な設定などを考える必要がありません。それゆえ、種目を変えて量産され続けているのでしょう。


マイナースポーツ作品の金字塔『ウォーターボーイズ』


そんなマイナースポーツモノの中で、もっとも成功した映画の一つが『ウォーターボーイズ』です。 2001年に公開され、その年の日本アカデミー賞・優秀監督賞、優秀脚本賞、優秀主演男優賞などを受賞した本作。
しかし、特筆すべき点はそれだけではありません。映画→連続ドラマ第1弾→連続ドラマ第2弾→スペシャルドラマ版と、4回に渡ってリメイクされている中で、全て安定した人気を博しているのです。
しかも、そこに出演する男子シンクロナイズドスイミング部部員役の役者たちが次々とブレイクしていくという、若手俳優の登竜門的な役割まで果たしていたのだから、テレビ局・映画製作会社・芸能プロ側からしたら、こんなに美味しいコンテンツはないというものでしょう。

高良健吾・星野源も 人気イケメン俳優を次々と輩出


では、実際に出演した主なウォーターボーイズたちを見ていきましょう。

映画版(2001年)→妻夫木聡・玉木宏・金子貴俊
連続ドラマ第1弾(2003年)→山田孝之・森山未來・瑛太・星野源
連続ドラマ第2弾(2004年)→市原隼人・中尾明慶・斉藤慶太・小池徹平
スペシャルドラマ版(2005年)→小出恵介・平岡祐太・柄本佑・高良健吾

上記のように、今や一線級となっている俳優がずらり。ここに挙げたタレントのほとんどが『ウォーターボーイズ』出演前まで、ほぼ無名に近い状態。
もちろん、JR SKISKIの広告のように、売れるであろう才能を「青田買い」した節もなくはないのでしょう。
ですがそれ以上に、このコンテンツでは、シンクロ部員役が一際輝くように仕組まれていたことは間違いありません。

撮影前にシンクロ部員役全員で合宿も


『ウォーターボーイズ』最大の見せ場といえば、何と言っても、物語のクライマックスに披露されるシンクロの発表会。このシーンを代役なしで臨むために、撮影前からシンクロ部員役全員で練習合宿に入るのは有名な話です。
ここで数日間、或いは数週間練習に励むことによって、部員(特に主要メンバー)はシンクロのスキルを向上させるだけではなく、まるで本物の部活仲間のような間柄になり、当然、その親密さは演技に活かされます。
また、この練習風景を撮影したドキュメンタリー映像もドラマの放送に合わせて情報番組や特番で公開されたので、本編と併せて見た視聴者は、さながら甲子園や春高バレーのような「リアルな青春スポ根モノ」を見ている気分になります。
だから、部員役の俳優たちに感情移入し、結果、彼らは人気者になるのです。

こうした若手俳優を売り出す優れた仕組みを持ちながら、ここ10年以上新シリーズが制作されていない『ウォーターボーイズ』。ドラマの放送局であるフジテレビでは最近、視聴率不振の影響から、過去の優良コンテンツにすがる“リメイクブーム”が起こっているので、来年あたり、新たなイケメン俳優を擁して久しぶりに放送されるかもしれません。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonよりウォーターボーイズ スタンダード・エディション [DVD]