「おひとりさま」とかいう呼び名をまとって、女性誌でとりあげられたり、今ではむしろオシャレ感すら漂いつつある「一人鍋」。
だが、そんなブームよりもずっと前、5年前から「一人鍋」を店名にうたっている店が大阪・天満にある。
入ってみると、店内には「忸懇の仲」なカップルと、馴染みのおっちゃん2人組がいるのみで、肝心の一人客がいない。生真面目にコンセプトを守ろうとする自分が、逆に気の毒に思えた。「一人客じゃなきゃお断り」ぐらいのイメージだったのになあ……。
「開店が2月の寒い時期だったことと、鍋ならできるだろうと。それに、梅田も天満宮も近いから、ふらっと立ち寄った一人のお客さんでも食べられるように、『一人鍋』にしたんです」
と、おかみさん。狙いというより、案外テキトウな理由からできたようだ。
「冬は一人客も多いですけど、今は2階で宴会もやってますよ。店名が一人鍋だから『鍋しかない』と思われて、夏場はどうしてもねぇ……」
一人分といっても、大阪基準。例えばハリハリ鍋の山盛りの水菜など、ボリュームは相当。にもかかわらず、鍋自体は律義に一人用の小鍋なので、目の前であっという間に沸騰してしまい、ぐつぐつのしぶきが勢いよくとぶ。
弱火でもこんな調子なので、勢い、具を投入するペースも、食べるペースも早くなる。
それでも合間合間にビールは飲みたいし、もう大いそがし。一人鍋は寂しさより、現実問題、慌ただしさとの戦いだ。
そういえば、数人で食べていると、トークが中心になったり、気の向いたときによそったりと、日ごろの鍋との向き合い方はいかに不真面目かを反省してみたり……。
1対1で食らう鍋は、真剣勝負。だらだらしてたら煮え繰り返るし、満腹であろうと、せっかくの旨い出汁で、雑炊をしないわけにはいかない。
そして、締めの雑炊は、なんとトンスイ山盛り3杯分!
おかみさん、あっしは「一人」をナメてましたよ……。
(田幸和歌子)



