落とし主が現れない電車の忘れ物のゆくえ
電車のレールから数センチのところで携帯電話は発見された
先日、友人宅で昼間から大いに飲んで帰宅すると、携帯電話がない。一瞬にして酔いは冷め、寝られない夜を明かした。
翌朝、利用している電車の忘れ物センターに電話すると、なんと私の携帯は線路に落ちていたとのこと。過去10年ぶんの知人のメモリーが、その夜レールから数センチの危機に瀕していた事実に青くなるとともに、線路まで酔っぱらいの携帯救出に向かっていただいた駅員の方に、心から感謝した。

だがこれまでも恥ずかしながら、電車には、仕事で使う映画のビデオ10本とか、自分の胸部のレントゲン写真(ある意味ヌード)など、気づいた瞬間、血の気が引くような数々の忘れ物をしてきた私だが、それらはかなりの確率で手許に戻ってきている。素晴らしい連携プレーにより乗客を守る、電車の忘れ物センター事情が知りたくて、東京メトロの広報にお話を伺った。
「忘れ物の1位は傘。そして定期、袋類、手袋、プリペイドカード、携帯電話、バッグ、免許証類、鍵、マフラーと続きます」
忘れ物が多い時期は、単純に雨の時期や冬など、ふだんの装いプラスαなものが増える時期だそう。
これまでの落とし物で驚いたものは? の問いには「マネキン人形の首」との答え。美容師の専門学校生などが練習に使うためのマネキンの首が忘れてあったらしいが、レントゲン写真に勝る強者がいたとは……。また、遺骨や位牌を置き忘れた人も。そして近年増えてきているのが、私も落とした携帯電話。
「携帯電話やノートパソコンの忘れ物は、個人情報の保護の問題があるため、見つけたら電源を切って中に触れないようにしています。すべての忘れ物は、発見された当日は各駅で保管され、東京メトロではその後1週間は、上野駅の忘れ物センターで一括して保管されます。
1週間経っても落とし主が現れない場合は、半年間警視庁へ。落としてから名乗り出るのが早ければ早いほど落とし主のもとへ戻る確率は高く、各駅に預かっている当日の段階で、約2割、上野のセンターでは1割が落とし主の手に戻ります」

だがその後、警視庁でも持ち主不明だったのは、なんとまたメトロに戻ってきて、今度は競売にかけられるのだそう。
「傘類とか、カバン類とか、大雑把なくくりでわけられた袋を、リサイクル業者の方々が競売で落とします。中に入っているものの詳細は公表せず、たとえばカバン類の中には、ルイ・ヴィトンのカバンも、スーパーで売っているカバンも同じように入っています。でもこちらとしては、それらすべてをゴミとして処理していただくことも考えて、一緒くたにして入れているのです」
また、東京メトロでは、平成16年4月から、遺失物検索システムを導入し、モノの形や色などを登録し、お客さんの問い合わせに答えて、各駅で照会できるようになっているらしい。

いまだに置き忘れが怖くて傘を買えない私のような粗忽者としては嬉しいシステム。
電車で座ったら、降りる前に身の回りの確認作業は忘れずに、と肝に銘じてはいるものの、飲むと気が緩んじゃうんだよなあ……イヤイヤだから「そんなに飲むな!」ですね。
(駒井麻衣子)