フランスがもっとも大切にする国はどこか? 欧州の隣国でもなく、もちろん日本でもない。それは中東の産油国カタールだ。


先月、同国のタミーム首長がフランスを公式訪問し、オランド大統領と会談した。仏ダッソー社の戦闘機「ラファール」の売買について話し合ったと言われている。これがまとまれば、「ラファール」の初めての輸出先がカタールになる。じつはこの両者、今回に限らず、近年になって急激に親密度を増している。

フランスにとってカタールは、巨額の投資をフランスへ運んでくれる上お得意様だ。典型的なフランスと思われているものの多くに、今やカタール資本が入り込んでいる。


首都パリを本拠地にするサッカーチーム「パリ・サンジェルマン」。2011年、政府系ファンドのカタール・スポーツ・インベストメント(QSI)は同チームを買収した。豊富な資金力を背景に、スウェーデン代表イブラヒモビッチやブラジル代表チアゴ・シウバなど、各国の有名選手を集めている。

毎年10月にロンシャン競馬場で開かれる国際レース・凱旋門賞も、2008年からカタール競馬馬事クラブが、10年4900万ユーロ(約68億円)でスポンサーになっている。賞金も増額されて華やかになった。特に昨年の92回大会は、日本馬オルフェーヴルが出走し、日本でも注目が集まったが、優勝をさらったのはタミーム首長の弟ジョアン殿下が持つ馬トレヴだ。
カタールがスポンサーの大会でカタールの馬主が勝つという、カタール尽くめの大会である。

パリのシンボルである凱旋門にも、カタールの影響を強く感じられる。同門があるエトワール広場に面し、世界各国から訪れる観光客へ旗をひらめかせる巨大な建物が、カタール大使館だ。凱旋門から伸びるシャンゼリゼ通りには高級ブランド店が軒を連ね、中東からの来た多くの観光客がショッピングを楽しむ。

経済界においてもカタールの影響は無視できない。仏最大のコングロマリット(複合企業体)ラガルデールの12%、建設会社バンシの7%、水道事業公社を元とする水事業会社ヴェオリアの5%、石油会社トタルの3%、メディア・電子通信会社ヴィヴェンディの3%、ルイ・ヴィトンやモエ・エ・シャンドンなどを擁するLVMHの1%が、カタール・インベストメント・オーソリティ(QIA:カタール投資庁)により出資されている(2012年末の時点)。
パリ屈指の高級ホテル「ロイヤル モンソー ラッフルズ」や「マジェスティック」も所有する。

カタールの潤沢な資金力は、同国で産出する石油や天然ガスの資源である。ロシアとイランに続き、天然ガスの埋蔵量は世界第3位だ。カタールはそれらをどこに売って巨額の利益を得ているのだろうか? じつは同国の輸出入を見ると、そのトップが日本だ。つまり日本へ天然資源を売って得たお金の多くが、巡り巡ってフランスへ投資されている。

日本とフランスを直接比較しても、フランスへ流れるお金が多い。
日本の外務省によれば、2013年に日本からフランスへの輸出額は6132億円であるのに対し、フランスから日本への輸出額は1兆1377億円だった。また、日本からフランスへの直接投資残高は1兆7330億円だが、フランスから日本へは1兆5566億円である。

観光客の数も圧倒的にフランスが勝っている。日本旅行業協会によれば、日本人の海外旅行先でフランスは10位で約62万人(2012年)。一方で、日本政府観光局によれば、日本を訪れるフランス人は2012年で約13万人だった。全体の訪日外客数が過去最高(1036万人)を記録した2013年でも約15万人だ。


金は天下の回りものともいうが、じつはフランス経済は、日本からのお金で成り立っている部分も結構あるのではないかと思えてくる。こういう見方でフランスに来てみると、また違った景色が見えて面白いかもしれない。
(加藤亨延)