たまごひとすじ、約90年という会社がある。1927年創業、広島県福山市に本社を置くアキタだ。
「ニューぴあっこ」「げんまんE」といった同社のたまごブランドをスーパーで見かけたことがある人もいるのでは?

アキタのたまごといえば、味もさることながら、高い安全・安心がウリ。「日本唯一の完全直営一貫生産システム」を実現しており、飼料の配合からヒナのふ化、卵の出荷まで、すべての工程を自社でおこなっている。

そんな同社が、先ごろ満を持して発売したのが、今までにない“おいしさ”を追求した新商品「きよらグルメ仕立て」。実はこれ、単なるグルメたまごじゃない。なんと業界初となる、たまご専用アプリ「アキタたまごAR」(※無料、iPhone 4S以降 iOS 6以上/Android OS 4.0以上)に対応したたまごなのだ。

アプリの内容も非常にユニーク。
「きよらグルメ仕立て」のパッケージにスマホのカメラを向けると、立体的に卵が浮かび上がってくる。タップすると中から動物が現れ、同じ動物をそろえると、ニワトリやヒヨコのキャラクターが出現。それらもタップすると、鳴いたり動いたりする。単純だが、キャラクターのコミカルな動きがおかしくて筆者の4歳の娘も夢中になっていた。筆者が遊んでも楽しいと感じるできだった。

しかし、生粋の老舗たまご会社がアプリ開発というのは、異例ともいえる試みだろう。
なぜなのか? アキタ経営戦略室の山崎さんに話を聞いた。
「当社ならではの一貫生産やトレーサビリティーを消費者伝えるためにはどうしたら良いか? と考えたのがスタートです。単にPC版でのトレーサビリティー画面をスマートフォン対応するだけなら簡単ですが、消費者はわざわざそのためにページを検索してくれるはずがありません。そこで考えたのが、アプリ開発です」

作るからにはダウンロードしてもらえるような面白いアプリでなければならない。
「当初はトレーサビリティーをニワトリ博士が教えてくれる、というような感じで考えていましたが、最終的にはまったく違う発想に切り替えました。パッケージをおもちゃに変身させることにしたんです!」

お母さんやお父さんが台所でご飯を作っているあいだに、子どもはパッケージで遊ぶ、というのが発想の原点。

「パッケージは、デザインなどに経費がかかっている割に、必ずゴミ箱にいきます。これをおもちゃ箱にいかそうと思いました。子供と同じ目線に立って、ワクワク感にとことんこだわっています」
あまりにもこだわったために、なんと山崎さんが自らラフデッサンを書いたそう。もちろんアプリには、当初の目的であるトレーサビリティーシステムも搭載。パッケージにある生産履歴番号を入力すれば、育てた人から飼料の原産国まで一目瞭然だ。

肝心の味も、ビックリするくらいおいしい。
「きよらグルメ仕立て」は、富士山麓、標高900メートルの自然の中で、地下500メートルからくみ上げた富士深層水を飲んで健やかに育った赤鶏が産んだもの。飼料に新旨味原料(※特許出願中)を配合することで、卵黄の粘度やコク、旨味をアップ。さらに、飼料にパプリカやマリーゴールドなど天然由来の色素を強化し、色鮮やかな黄味の色に仕上げてある。実際に食べてみると、明らかに一般的な卵よりねっとりしていて、たまごの味がとても濃厚。ほのかな甘味もあり、旨味たっぷり。有名シェフやパティシエを招いた試食会でも絶賛されたというのも納得だ。


そういえば、同商品の試食会はマンダリン オリエンタル 東京で、“卵尽くしのフルコース”という、ユニークな形で紹介された。しかもメニューを考案したのは、一流パティシエのステファン・ヴュー氏。クローズドな試食会のために、これほどこだわっている会社は他に見たことがないかも。

それでいて、決して高級品ではないのがうれしいところ。現在、関東・中部・近畿圏のダイエーにて先行販売中なのだが、価格も10個入り265円(税抜)と意外に庶民的。「たまごは日本人の食生活に欠かせないものだからこそ、リーズナブルな価格で安心なものを届けたい」という同社の思いが背景にある。


「第一次産業だから……と言い訳せず、イノベーションを起こしていきたい」
と新たな取り組みに意欲をみせる山崎さん。ちなみに次回のプロモーション戦略としては、妊活シンポジウムへの特別協賛が決定しているとのこと。今後の展開も楽しみにしたい。
(古屋江美子)