先日、知り合いのデザイナーさんと、「DIC(ディーアイシー)カラーガイド」の「日本の伝統色」「フランスの伝統色」「中国の伝統色」シリーズの話題になった。ご存知の方も多いと思うが、「DICカラーガイド」とは、デザイナーや印刷会社などが色の指定や色合わせに利用する色見本帖のことで、グラフィック、ファッション、インテリアなどの幅広い分野で活用されている。
この伝統色シリーズに収録されている色にはそれぞれ解説がしてあるのだが、デザイナーさんいわく、「思わず読み始めると止まらない、まるで読みもののよう」というのだ。

例として、「フランスの伝統色」から、2つの色の番号と名前、それぞれの解説をあげてみよう。

DIC-F47:忘れな草のブルー
「小さなブルーの花が咲く(時々白か、ピンクもある)。忘れな草はまた “恋の草”、“鼠の耳(この葉の形から出る)”、“私を忘れないで”等の名でよばれている」

DIC-F108:カレーの色
「1602年頃まではマラバル語でカリと呼ばれ、20世紀には英語でキューリー、或いはカリーと呼んだ。唐辛子やウコンや他の粉末の香料を加えて作るインドの料理で、その色を指す」

上記のように、ちょっとしたウンチクを交えつつ、解説がなされている。いわば色の辞書みたいなもの。
これが、それぞれのシリーズ約300色余、すべてに書かれているのだからスゴイ!

そこでいろいろ聞きたくなり、さっそく発行元のDIC株式会社に尋ねてみた。

まず、日本、そしてフランス、中国の伝統色シリーズを作ったきっかけについて聞いてみると、「『日本の伝統色』制作のきっかけは、1978年1月6日の朝日新聞朝刊に出ていた『日本の伝統的な色彩は1100余色、多い植物染料からの由来』という記事であったようです。当時の制作担当者がこの記事をヒントに、日本色彩研究所の細野尚志氏に資料の蒐集を依頼してまとめたものが日本の伝統色になっております。『フランスの伝統色』、『中国の伝統色』については資料が残っておらず、当時の制作関係者がすでに退職しているため詳細は不明ですが、それぞれの選者とのコネクションがあり、協力を得て制作されたようです」とのことだった。

ちなみに、「日本の伝統色」は1978年、「フランスの伝統色」は1984年、「中国の伝統色」は1986年に、初版が発行されているという歴史がある。

それぞれの色の選定は、「日本の伝統色」を日本色彩研究所の細野尚志氏、「フランスの伝統色」を山田夏子氏(故人)、「中国の伝統色」を中央美術学院教授の王定理氏(小林由紀子氏/編集協力・日本語翻訳)がしたそう(※それぞれ肩書きは、初版制作時のもの)。


例えば、フランスの伝統色の場合の選定基準をうかがうと、「山田夏子氏(滞仏歴30有余年)が、実際にフランスで使われていた様々な色を集め被服用の見本帳としていた色で、特に布の色が多かったようです。フランスの伝統色は、同氏の著書である「仏和色名辞典」に収録されている310色に新たに11色を加えた321色で構成されております」という。

さらに「中国の伝統色」は、「20世紀の動乱で散逸してしまった中国の伝統的な色彩に関する資料を、王氏の記憶や、散逸を逃れた資料の断片、あるいは敦煌を訪ねて集めた標本などをもとに1年をかけて蒐集したものです。鉱物から採った色を主体に、植物の色、合成色、外国より渡来した色などが収録されています」とのこと。とにかく、蒐集するのも一苦労だったのがうかがえる。

このように選定の基準がそれぞれありつつも、どの伝統色も最終的には選者の感性によって選ばれた色だとか。


それにしても、DICカラーガイドをみていると、その色の豊富さにいつも驚かされてしまう。伝統色シリーズのほかにも、DICカラーガイドはまだまだあるし……。みなさんも機会があったら、ぜひ、すばらしい色のコレクションとともに、色の解説をじっくり読んでいただきたい!
(田辺香)

DIC(株)HP