「日本から韓国に渡ったゾウがいる」と聞いて、韓国に住む日本人の私は仲間意識を感じてそのゾウに会いに行った。行き先は韓国を代表する動物園、ソウル大公園内にある「ソウル動物園」である。


ゾウの名は「サクラ」。44歳になるメスのアジアゾウだ。それまで暮らしていた「宝塚ファミリーランド」が2003年4月に閉園したことに伴い、同年5月フェリーに乗って韓国までやってきた。
同年3月19日の神戸新聞によると、4施設がサクラちゃん受け入れを名乗り出る中で、施設が充実していることや韓国との友好を深める目的から、ソウル動物園が彼女の新しい棲家として選ばれたという。

同動物園のウェブサイトを見ると、人気の動物を紹介するコーナーがあるのだが、6種の人気動物のうちのひとつとして「日本から来た愛嬌満点のスター、ゾウのサクラちゃん」とあり、韓国の子どもたちに人気を集めていることが伺える。同郷の者として、これはうれしい限りである。


ソウル動物園のゾウ舎を訪れるが、そこはちょっとした運動場のように広大で、何頭かいるゾウのうち、どれがサクラちゃんなのかよくわからない。
しかし、取材をお願いした現在の飼育士、ユン・テジンさんが「サクラ!」と呼ぶと、一匹のゾウがこちらによってきて、人なつっこっく鼻を伸ばしてきた。この元気なゾウがサクラちゃんであった。
テジンさんは「サクラはとっても頭のいいゾウで、私の言葉もわかるようなんですよ」と話す。写真が撮りやすいよう、サクラちゃんに檻から離れてもらえないかと伝えると、テジンさんは彼女の好物だというリンゴを投げながら、彼女を上手に誘導してくれた。

日本から韓国に来たゾウにとって、心配なのは環境の変化であるが、それについても「気温が零度以下のときは室内に入れるようにして、保温には最も神経を使っています」という手厚い管理のもと、彼女は元気に暮らしているよう。

「美しく、幸せなゾウとして暮らしてほしいと願いながら、奉仕させてもらっていますよ」と、テジンさんはサクラちゃんへの愛情を話してくれた。

サクラちゃんのことを描いた本も発売されているとのことで、日本に戻った際に読んでみた。『サクラ―日本から韓国へ渡ったゾウたちの物語』(キム・ファン著、学習研究社刊)がそれだ。
この本を読むと、「サクラ」という日本を連想させる名前がそのまま韓国でも用いられ、人々に愛されていることが、どんなにすごいことなのかよくわかる。宝塚ファミリーランド時代、サクラちゃんの飼育係をしていた方へのインタビューも感動的だ。

またこの本は、日本児童文学者協会主催の「第1回子どものための感動ノンフィクション大賞」最優秀賞を受賞している。
様々なゾウの物語を通じて、日韓関係の側面をわかりやすく描いていることでも秀逸で、お子さんだけでなく、全ての動物好きに読んでほしいと思った。
サクラちゃんの物語は韓国語でも出版され、多くの人に読まれるところとなっている。これからも彼女が、日韓友好の象徴として元気に暮らしてくれることを期待したい。
(清水2000)