最近、駅などの階段で、クネクネと波のような形の変わった「手すり」をよく見かける。変わった形なので、一見持ちにくそうだが、重い荷物を持って階段を上がるとき、この手すりがとても使いやすいことに気づく。


この手すりの名前は「クネット」。筆者がこの名前を知ったのはクネットの故郷の地、長崎県佐世保市だった。
この不思議なクネクネした手すりが全国に広まっている秘密に迫ってみよう。

◇クネットの仕組み◇
普通の手すりは、斜めにまっすぐなので、滑りやすい、力をかけにくい、といった欠点がある。
それに対して、クネットは「水平部分」と「垂直部分」がある。これにより、握りやすく、滑りにくくなっている。
「水平部分」で「杖」のようにしっかりと体を支え、「垂直部分」で「取っ手」のように体を引きつけることで、従来の手すりより階段の昇り降りが安全で楽になるのだ。
安全な上、手にしっかりと力が入ることにより膝への負担も軽減される、ユニバーサルデザインな手すりなわけ。
なお、世界でこのような形の手すりはクネットだけとのこと(クネットは世界26カ国で、特許や実用新案を取得)。

◇クネットの誕生◇
佐世保市も長崎市と同じく、坂が多い町。そんな町で、急な階段に手をついて昇り降りをしているお年寄りから、「手すりにも水平部分が必要」とヒントを得て、クネットは2001年に誕生した。
2004年には、「株式会社クネット・ジャパン」が設立され、本格的に営業活動が開始。
順次、東京・大阪・福岡と支社が開設され、全国へ普及への第一歩が始まった。だが当初は変わった形への拒絶反応、高コスト、そして前例(設置事例)が少ないことなどを理由に、なかなか採用されなかった。

◇クネット普及とそのわけ◇
転機は2006年のバリアフリー新法施行と、2007~2008年のガイドラインの改定。
従来「手すりは2段設置しなければならない」とされていたが、このとき「クネットは1本で、直棒2段手すりと同等以上の機能性を持つ」と認められた。
これにより、コストの問題もほぼ解決され、多くの鉄道駅などでの本採用を皮切りに、行政や民間の施設、さらには集合住宅や個人の住宅での設置も進み、現在の設置数は日本全国で約5万1000件となっている。
また、採用の理由も様々。
例えば学校では「手すりを滑って遊ぶのを防止するため」といった理由もあるが、「ユニバーサルデザインの生きた教材」という理由も大きいとのこと。これは公共施設や企業の建物でも同じで、その独特な形は、多くの人々にユニバーサルデザインを意識させ、また行政や企業の取り組みの姿勢を表すという意味でも、メリットが大きいわけだ。

◇クネットはどこにあるのか?◇
クネットの設置場所の例をいくつかあげてみよう。
関東:六本木ヒルズ、アークヒルズ、新宿サザンテラス、明治神宮球場、東京国際フォーラム、デックス東京ビーチ、京王永福町駅・調布駅、JR国分寺駅など。
関西:関西国際空港、道頓堀人道橋、京阪中之島線4駅、阪神電鉄なんば線4駅、JRAウインズ梅田、清水寺、石清水八幡宮など。
全国的に寺社での設置も進んでおり、湯島天満宮、太宰府天満宮(福岡県太宰府市)、岩津天満宮(愛知県岡崎市)、防府天満宮(山口県防府市)など。


なお、学問の神様、湯島天満宮では、”滑らない”手すりということで、クネットの水平部分に「すべりませんように」と書かれた絵馬がかけられていたこともあり、このときは「ラクラク(楽々)でラック(幸運)な手すり」と、クネット・ジャパンの社内はダジャレで盛り上がったとか……。
(もがみ)