現在30歳以上の人なら小学校高学年の頃、『保健体育』の時間に、女子だけが視聴覚室などに集められて何やら指導を受けていた記憶がないだろうか? その間、男子は校庭で遊んでいたりして、女子が教室に戻ってもその内容を聞いてはいけないようなムードがあり、妙にソワソワした空気が流れたものだった。ああ、甘ずっぱかったあの頃……。


と、思わず遠い目になってしまう思春期の記憶が蘇ると共に、各国の性教育のありようをも恒間見ることができるこんな本が発売となった。『こんなに違う! 世界の性教育』(メディアファクトリー)である。アメリカ、オランダ、フィンランド、イギリス、ドイツ、オーストラリア、カナダ、タイ、中国、韓国、日本という11カ国の性教育を、各国に詳しい研究者が教材の図版入りで解説するという内容。
どこの国でも「10代の望まない妊娠」と「エイズ感染」の急増に頭を悩ませており、さまざまな工夫が凝らされている様子。

たとえば、「自由と寛容の国」オランダでは5歳から性教育がはじまり、小学校によってはバナナにコンドームをかぶせる実習をさせるなど(!)非常にオープンな教育が行われているという。
また、中国では「性は恥ずかしいものでもなんでもない」という考えから教材に抽象的なイラストなどを使わず、生身の人間で図解しているため、その内容は日本では「わいせつ物」に該当してしまいそうなものなのだとか(そう言われると、どんなものかひと目見てみたい気も……)。

はたまた、「微笑みの国」タイでは、カップの水を数滴ずつ交換することでエイズ感染の広がりやすさを説明するなど、なるほど~と感心!

最終章が「日本」になっているのだが、わが国の性教育は今、どんなことになっているのか? かつて、女子だけを集めて行われていた教室では初経やナプキンの使い方などについてレクチャーされていたわけだが、現在20代以下の人のなかには、「初経の指導も精通の指導も男女一緒だった」という記憶を持つ人も増えているという。
しかし、その内容については中学校の保健体育でも、「中学生は性行動をしない」という前提のもとに、「思春期の体の変化」「妊娠・生命の誕生」など生物学的アプローチが主流で、性交や避妊、出産などについては教えないことが多いらしい。日本では保健体育の先生=スポーツの専門家であることが多く、こういうデリケートなテーマに熱心でない場合も多いのだそうで……。

とはいえ、とある小学校ではたとえば妊婦体験(3キロの砂袋リュックを抱える)や、みんなで産婦人科を訪問して新生児を抱かせてもらう、といった先進的な指導の事例も紹介されていて、自分も子どもの頃にそんなリアリズム的体験をしていれば人生変わっていたかもな~とちょっと考えさせられた。

版元の担当者さんにお話を伺ってみたところ、「好評をいただいている既刊に『こんなに違う! 世界の国語教科書』がありまして、世界各国の国語教科書から、それぞれの国の理想や心情、現実を読み解くことができました。本書も同様に、『性教育』を入り口に、これまで知らなかった各国の新たな顔が見えてくる、と好評をいただいております」とのことだった。


そういえば、本書には載っていなかったのだが、アムール(愛)の国・フランスではどんな性教育が行われているのだろう……と気になった。お子さんがいる方などは、性について家庭でどう教えるのかという参考書として読んでみるのもイイかもしれませんね!?
(まめこ)