昔、インドに貧したことがあるのだが、数ある強烈な思い出の中で、やけに印象に残っているのが、自転車3人乗りではしゃぎながら家に帰る学校帰りの女の子と、安宿のロビーでおじさんが熱心に見ていた、「クリケット」のスポーツ中継である。

日本ではほとんど馴染みのないスポーツなのだが、Wikipediaによると、「イギリス発祥で、競技人口はサッカーに次ぐ世界第2位」らしく、世界的にはものすごくメジャーなスポーツらしい。


クリケットは、野球に似た競技、というか野球の原型といわれる競技である。投手(ボウラー)が投げたボールを打者(バッツマン)が打ち、打ったボールがフィールドを転がる間に打者が走って点を重ねる。

ただ野球とは基本的に異なるスポーツであり、 例えば野球であれば3回空振りをしたら打者がアウトになるのだが、クリケットの場合、打者の後ろにある3本の棒(ウィケットという)のどれかにボールが当たるとアウトになる。この他にも様々な違いがあるが、説明しきれないので、クリケット協会ウェブサイトの「松村教授の簡単クリケット講座」を参照いただきたい。

クリケットは、そのルールの関係上、試合時間が非常に長い。国対抗の試合の場合、4〜5日かかることもざらであり、インドのおじさんがずっとクリケット中継を見っぱなしだったのもうなずける。


また、「社交」をとても大切にするスポーツであり、試合中にティータイムがあり、相手チームと紅茶を飲みながら談笑する時間があるという、野球やサッカーでは考えられない紳士的な一面を持っている。

そんな感じで、世界的には野球よりもポピュラーなクリケットなのだが、日本での競技人口は1500人程度と非常に少ない。

そんな中、日本で唯一「クリケット部」のある中学、高校がある。大阪府の上宮中学校・高等学校がそれである。

顧問の西脇先生によると、「部員は男子、女子合わせて50人ほどいます」とのことで、野球部などメジャースポーツにも劣らない大所帯である。

設立のきっかけは、19歳以下のクリケットワールドカップ予選が数年前に行われた際、「日本もぜひ出場を」という声がクリケット関係者から高まり、学校OBからの紹介で、学内にクリケット部が発足したのだそうだ。
西脇先生によると、「クリケットの紹介ビデオを見て、これは絶対に楽しいスポーツだと感じました。そのときに感じた通り、 発足以来、着実にクラブが発展してきています」とのこと。

同世代にクリケット部が少ないことから、大学のクリケット部と練習試合をしており(しかも互角以上の試合をするらしい)、さらに驚くべきことに、19歳以下ワールドカップの代表選手が毎回5、6人、選出されるのだそう。

高田剛史さん(高校3年)と谷山誠さん(高校2年)は、2011年に19歳以下日本代表としてオーストラリアでの国際大会に出場し、現在はフル代表の選手団に所属する、上宮高校クリケット部のエースなのだが、このお2人に、「憧れのクリケット選手」を問い合わせてみたところ、以下のような回答をいただいた。

・Sachin Tendulkar選手(インド)
「クリケットの歴史で最も素晴らしい選手の一人で、多くの記録を24年間で作ってきました。そして38歳の今でも現役で活躍しているところに憧れます(高田さん)」。


・Shane Warne選手(オーストラリア)
「歴代2位のアウト数を誇る現役では世界一のスピナーで、6種類の変化球を自在に操る卓越した技巧を持っています。私が変化球を投げるきっかけになった選手です(谷山さん)」。

高田さんの夢は「日本代表として国際試合に出場すること、そしてクリケットを日本に普及させること」、谷山さんの夢は「プロのクリケッターとして日本のクリケット界を牽引すること」とのこと。2人が活躍する姿をお茶の間で観戦できるようになる日も近い、かもしれない。
(エクソシスト太郎)