世間にはさまざまな“変わった仕事”が存在する。ヒヨコのオスメスを判定する「初生ひな鑑別士」、鬼瓦やシャチホコを作る「鬼師」、お酢専門のソムリエ「酢ムリエ」……。

ムキになっておもしろい職種名を挙げてみたが、最近聞いて「そんな仕事があったんだ?」と驚いたのが「お化け屋敷プロデューサー」である。

7/20に東京ドームシティ アトラクションズにオープンする『恐怖の20周年 お化け屋敷の人形倉庫』を手がけるのが、そのお化け屋敷プロデューサーを名乗る五味弘文さん。
彼がこの仕事をスタートして今年でちょうど20年が経つが、これまでに全国で手がけたお化け屋敷で動員した人数は、なんと約500万人にのぼるという。

五味さんのお化け屋敷は、赤ん坊を抱いて進む『パノラマ怪奇館'96〜赤ん坊地獄』(1996年)、同行者と手錠でつながれる『LOVE CHAIN〜恐怖の鎖地獄』(1998年)、靴を脱いで歩く『足刈りの家』(2010年)など、斬新な演出が特徴だ。近年ではお化け屋敷内にライブカメラを設置して営業終了後も館内の様子を配信したり、お化け屋敷の登場人物が毎日更新するブログなど、ネットと連動した企画も好評だったそう。

お化け屋敷プロデューサーという仕事の中身、そして入場者を怖がらせ、得体の知れない不安を引き出すアイデアはどこから湧いてくるのだろうか。
ご本人に聞いてみた。

――五味さんは、具体的にはどういった内容のお仕事をされているのでしょうか?
「お化け屋敷の演出プランからストーリーづくり、それに沿った図面の作成、美術などの各業者への発注とチェック。さらに運営スタッフへのレクチャーやトレーニング、宣伝やプロモーションなど多岐にわたりますね」

――ただお客さんを驚かせるだけではなく、毎回必ず設定やストーリーがあるんですよね。ほかにはどういう点にこだわっていますか?
「機械などの仕掛けだけでなく、キャストを出すこと。あとは、そのストーリーにお客様が参加するような役割を担ってもらうこと。今回の『お化け屋敷の人形倉庫』では、“生き人形になってしまう”という理由で目玉を抜かれた人形に、目玉を入れてきてもらいます」

――お客さんがある意味、逃げられないような状況を演出されるわけですね。
毎回凝った趣向のお化け屋敷を手がけられていますが、日々どんなことから演出や設定などのヒントを得ているのでしょうか?

「私の場合は、直接会場で多くのお客様の様子を観察することですね。お客様の反応を見ながら、次回の企画につながるアイデアを思いつくことが多いかもしれません」

――この夏は東京以外にも、大阪・広島・新潟と各地で異なる内容のお化け屋敷を手がけられるそうですが、それぞれストーリーや設定はどう組み立てていますか?
「その土地柄や会場に合わせて考えます。大阪では、大阪発祥の人形劇“文楽”にヒントを得た『ゆびきりの家』。平清盛ゆかりの地の広島では、平家の怨霊に耳をもがれる“耳なし芳一”から発想した『呪い人形 キクミさま』。新潟はデパートで開催するので『丑三つ(うしみつ)マネキン』。すべてそこでしか体験できないお化け屋敷にしています」

――20周年にちなんだ東京の「お化け屋敷の人形倉庫」は、どういうところが見どころになりそうですか?
「今回は20周年と言うことで、お化け屋敷の舞台裏にお客様を招き入れようと考えました。
歴代のお化け屋敷に登場した人形や小道具などが見られるのも魅力です。昼の部と夜の部では演出が異なり、17時からの『超・絶叫篇』では、井戸の中にある水に手を入れて目玉を取らなくてはならないという演出がポイントでしょうか」

夜の閉館後のお化け屋敷で、お客さんの反応を思い出しながら人形の位置や仕掛けを調整してみたり、新しい演出を考えたりする時間が好きだという五味さん。チキンな私にはとても耐えられないシチュエーションだが、“お化け屋敷の中の人”は、この夏もこうやって最恐の空間をコツコツと仕上げていくのだろう。
そんな彼の20年分のノウハウが詰まった『お化け屋敷の人形倉庫』。怖くないはずがない……。
(古知屋ジュン)