例えば、コンビニでお札をくずしたい時。そんなに欲しくもないガムを買ったりするのは、よくあること。

例えば、コンビニで道を聞きたい時。もしかしたら、道案内をしてもらう代わりに何かを購入することだってあるかもしれない。丁寧な人の場合。
……致し方ないといえば致し方ないけど、ムダな出費といえばムダな出費か?

そして振り返りたいのが、以前コネタで紹介した“試し書きアート”について。ヒッピーとして世界を放浪していた数年前、偶然ベルギーで遭遇した1枚の試し書きに感動した“試し書きコレクター”寺井広樹氏は、この出会いを契機に世界の試し書きを収集するようになったという。

では、どのような方法で試し書きを収集してきたのだろうか?
「ニューメキシコでの話なんですが、現地の文具店で『試し書きをください』とお願いするも、断られてしまったんです。
そこで『お店にあるボールペンを1本購入するから』と申し出ました」(寺井氏)
しかし、無下にされる。そこで、もう1本追加してみた。「2本買うから」と懇願したのだ。しかし、NO返答。「3本買うから」と食い下がるも「ダメ」。遂には「4本買うから」と申し出ると、ようやく「じゃあ、いいよ」と譲ってもらえたという。

そうして手に入れた買うつもりの無かったボールペンが、画像として掲載してあるチャーミングなやつです。
「ぶっちゃけ、途中から『可愛いから買ってもいいかな』と思っていましたね(笑)」(寺井氏)

とは言いつつも、そのつもりじゃないのに集まった文具は40種以上。それら全てを一挙に展示する「無駄に買った世界のブング展」が、中村文具店(東京都小金井市)にて11月3日(文具の日)に開催されるそうなのだ。
では当日は、他にどのような文具が公開されるのだろう? そこで“世界で買ったムダ文具コレクション”を、一足お先に拝見させていただきました!

まずは、ノートを見てみましょうか。これ、何の変哲もない大学ノートに見えるんだけど……。と思いきや、ロゴに注目してください。
そこには「Gambol」と書いてある。「Campus」じゃなくて。やはりというか何というか、これは中国で購入した文具だそうです。
「調べてみると、『Gambol』という会社は中国では大手みたいなんです。成り立ちは、パクリからかもしれないのですが……(笑)」(寺井氏)
笑っちゃっていいんでしょうか。ただ、世界の文具の醍醐味と言えるとは思う。


あと、アルゼンチンで入手したという文具も面白い。このアイテムで、日本とは異なる異国の文化を知ることができるのだ。
「アルゼンチンには“papel arana” という、蜘蛛の巣の模様が刻まれたノートカバーがあるんです」(寺井氏)
アルゼンチンではお母さんが子供からノートを受け取り、この蜘蛛の巣デザインの包装紙を包んであげるのが日常の風景だそうだ。お弁当箱を包む手ぬぐいの役割だろうか? 所変われば、ですな。

そして、寺井氏は今になって後悔している。ケニアで買ったボールペンについてである。

「海外で販売されているボールペンには、インクが出ないものも少なくないんですね。なので、試し書きは必須です。ケニアでも試し書きをし、当然インクが出るペンを購入しました。ただ今思うと、せっかくのケニアなんだから書けないペンを買っておけばよかった気もしています」(寺井氏)
日本にいる今だからこその心境だろう。当時、インクが出ないペンを買うような思考と嗜好は無かっただろうから。でも、惜しかった!

そして、もう一つ。
試し書きつながりで、あまりにも興味深いコレクションが当日は公開されるそうなんです。
「ブング展では、永六輔さん、ちばてつやさん、みうらじゅんさん、倉田真由美さんの試し書きも展示いたします。“試し書きコレクター”の観点からすると、永さんの試し書きはどうしても欲しい一品でした」(寺井氏)
なぜなら「永」という字が、試し書きには最適だから。実はこの一字には“とめ”、“はね”、“はらい”のすべての要素が詰まっているという。この事実は意外に広く知れ渡られているようで、試し書きに「永六輔」と書く人も多いというのだ。
「永さんが書かれた試し書きを拝見すると、やはりご自身のお名前を書かれていました。試し書きを収集していく中、何度も『永六輔』の字を見てきましたが、もしかしたらその中にご本人が書いたものもあったかもしれません」(寺井氏)

試し書き収集がスタート地点だったはずが、いつの間にか世界に思いを馳せてしまう。それだけではなく、人と人とをつなぐドラマにも成り得る。
そう考えると、今回の展示会は“文房具マニア”以外にも見ていただきたい内容となっていますね……!
(寺西ジャジューカ)