新宿のカフェ「Cafe&Meal MUJI」で、お茶やフードを楽しみながらアートに触れられる『IDEE Life in Art』。その一環として、独特のタッチで妖怪たちを描く“妖怪絵師”として人気の石黒亜矢子さんの作品展示が6月6日よりスタートする。


京極夏彦さんの小説の装丁画などでも知られる石黒さんの作品テーマは、主に彼女が創りだしたオリジナルの妖怪。書き込みが細かく大迫力のものから、著書の絵本『おおきいねことちいさいねこ』のようなシンプルでかわいらしいものまで様々な作品があるが、日本画を連想させる独特の絵柄にはファンも多い。ちなみに石黒さんはホラーマンガ家・伊藤潤二さん(『富江』『うずまき』などが有名)のパートナーでもある。

今回展示する作品についてはもちろん、ユニークな“妖怪絵師”として活動するようになった経緯などを石黒さんに聞いてみた。そもそも石黒さんが妖怪に魅かれ、妖怪を描くようになったきっかけは何だったのだろうか?
「昔、スランプに陥りまして、その時期に図書館で出会った江戸の絵師たちの自由な絵に助けられました。その頃から妖怪といって描きだしたように思います。
それまでは自分が勝手に空想した生き物に“創造生物”とか名付けていたのですが、自分の描く生き物が妖怪なのだと気づいたとき、すとんと落ち着きました」

迫力と躍動感を感じさせる水墨画で知られる曽我蕭白(しょうはく)や、妖怪や化物を描いた作品で多くの傑作を残している河鍋暁斎(きょうさい)、そして『妖怪ハンター』などの個性派作品で知られる漫画家の諸星大二郎さんなどの作品に影響を受けてきたという石黒さん。実は“既存の妖怪にはあまり詳しくない”とのことだが、好きな妖怪のタイプを聞いてみたところ、
「好みの見た目は、まるい、もたもた、もじゃもじゃ、とげとげ、ぬるぬる、胴がやたら長い、足がたくさんある、顔がでかい、などなど。あと基本的には、でっかい妖怪が好きですね。なので怪獣も大好きです。ゴモラとツインテールとエレキングとキングキドラが特に好きです」
と、擬音だけでなんとなくその妖怪のビジュアルが伝わってくる、なんともリアルな回答が……。

そして石黒さんの作品といえば、京極夏彦さんの小説『邪魅の雫』などの装丁画を連想する人も多いのではないだろうか。
あのインパクトのある作品は、どんな流れで作られているのだろうか?
「私の初めての装丁画のお仕事が、京極先生の『豆腐小僧双六道中ふりだし』という作品でした。制作にあたっては京極先生の作品を読んでイメージを膨らませましたが、先生からの絵柄に対する指示は全くなく、装丁家さんの装丁デザインのアイデアを元に、本当に自由に描かせていただきました。今も京極先生のお仕事は楽しいです」

今回のカフェ展示でのテーマは『化け猫と幻獣』。会場には約30点の作品が並ぶ予定だ。

「化け猫とは怪異をなす妖怪猫のこと。幻獣とは空想上の怪物のこと。
日本古来の妖怪と欧米の怪物、似て非なる空想の生き物たちを描きました。滑稽な彼らの絵をみて、笑ってもらえたら幸いです。化け猫の方では『百猫夜行 ひゃくびょうやこう』という化け猫の行進絵巻を描きました。“百鬼夜行”の化け猫バージョンです。幻獣の方の作品は、一角獣などの有名な幻獣の他に、今回はじめてきちんと描いた可愛らしい妖精シリーズがあります」

今回の展示テーマの一つである化け猫については、昨年秋にも個展『化け猫展』を開催していたりと、石黒さんの作品の中でも特に人気が高い。ちなみに石黒さんのTwitter(@ishiguroayako)には、てんまる、とんいちという“化けてない”リアル飼い猫たちの写真やイラストもたびたび登場するのだが、石黒さんにとって猫は「様々な方面から私を助けてくれているとても愛しい大切な存在で、絵に描くと面白いやつら」なのだそう。


“カフェ×妖怪”という、ちょっとシュールな組み合わせ。石黒さん本人も「カフェという賑やかな場所での展示は生まれて初めて」と語っていたが、味のある妖怪たちの姿をゆっくり眺めるのも、楽しい梅雨の過ごし方ではないだろうか。
(古知屋ジュン)

【IDEE Life in Art #20 石黒亜矢子「化け猫と幻獣」】
会場:Cafe&Meal MUJI(東京都新宿区新宿3-15-15 新宿ピカデリーB1F)
日時:6/6(金)~7/23(水) 11:00~21:00
※展示作品は全てIDEE Life in Art オンラインサイトにて販売