お父さんが釣った魚をクーラーボックスに入れて帰宅、それを家族の晩御飯のおかずにするというのはとても微笑ましい光景だ。だが、最近、「釣ったばかりの魚はあまり美味しくない」と指摘する有名釣り師の話を耳にした。
これは意外や意外、釣ったばかりの魚は新鮮だから魚屋さんのものより美味しいはずと思っていたから……。
さて、その真偽のほどを独立行政法人・水産大学校(山口県下関市)に聞いてみた。

―――「釣り人の釣った魚は、釣りのやりとりの結果、乳酸が溜まり、その結果あまり美味しくない」というのは正解なのでしょうか?
「魚によっては正解です。釣りのとき、魚が激しく暴れるとエネルギー源のATP(アデノシン三リン酸)が消費されて筋肉に乳酸が蓄積し、筋肉のpHが下がります。pHが下がることで酸っぱく感じます。タイのような白身魚よりもマグロなどの赤身魚で著しいです。
他方、上手に魚を暴れさせずに釣り上げた場合は、ほとんど酸味は気にならないと思います」

なるほど、白身より赤身魚で起こりやすい現象で、あまり暴れさせないで釣るのがコツだという。

―――「釣った魚はその日に食べることが多いため、熟成されておらず、美味しくない」は本当でしょうか?
「死後、魚のエネルギー源であるATPは、ATP→ADP(アデノシン二リン酸)→AMP(アデノシン一リン酸)→イノシン酸→イノシン→ヒポキサンチンと鮮度低下に伴って分解されます。この中の“イノシン酸”が魚のおもな旨味成分なので、釣り上げた直後はまだイノシン酸が少なく旨味は薄めです。ただその反面、歯ごたえはしっかりしています。歯ごたえのある刺身を好む人は旨味が薄くても“美味しい”と感じるでしょう。なお、魚種や環境によっても大きく左右されるので、釣ったその日に食べてもイノシン酸が蓄積している場合もあります」

旨味は“イノシン酸”がポイントなのだ。
歯ごたえがあるほうが好きという人もいるだろうから、一概に美味しいか美味しくないかは言えないのだ。

―――釣った魚をおいしく食べるための方法っってあるのでしょうか?
「一般的には、即殺(延髄破壊)、神経処理(脊髄破壊)、脱血、冷却するのが良いです」

・即殺:目の後ろ付近を刃物で突き刺すなどして魚が暴れないようにする
・神経処理:ピアノ線を脊椎骨の孔に通して、脊髄を破壊して、脊髄反射による魚の痙攣を防ぐ
・脱血:エラ下の血管を切ったり、尾部に包丁で切れ目を入れて方血することで、魚肉の血の匂いを低減したり、肉色を綺麗にする
・冷却:氷などで魚を冷却することで、鮮度を保つ

「歯ごたえが好きな人はできるだけ早く食べ、旨味が好きな人は時間を置いたり、軽くあぶったりしてイノシン酸が蓄積してから食べると良いと思います」

―――魚種の違いで、美味しく食べる方法は異なるのでしょうか?
「どの魚種でも釣り上げた後の魚体処理方法は同じです。ただし、ATPが分解して旨味成分のイノシン酸が生産されることはどの魚でも同じですが、イノシン酸のまでの分解速度は、魚種、魚の大きさ、魚の状態、季節、取上げ方、保蔵温度などに左右されます」

お父さんに釣り上げた魚が、いつごろ、どうやって釣れたかなどを聞いてから調理してたほうが、自分の好みの味に近づけることができそう。是非お試しあれ!!
(羽石竜示)