今年の夏も「青春18きっぷ」が利用開始となった。「青春18きっぷ」とは、全国のJRの普通列車が乗り放題になる期間限定の乗車券だ。
春・夏・冬と学生の長期休暇のタイミングで発行される度に、駅に貼り出されるポスターを眺めては「あー、青春18きっぷを使って旅したい」とついつい思ってしまう。なかなか実現できず、毎年同じようなことを考えてしまっているが、この記事を読んでいる方のなかには、実際にポスターをきっかけに旅へ出かけた人がいるのではないだろうか。

そんなにも旅行欲を刺激してくる「青春18きっぷ」のポスターをまとめた写真集『「青春18きっぷ」ポスター紀行』が発売されたのを知り、その魅力を探るべく、講談社の担当編集者・榎本さんにお話をうかがった。

ネットで話題の「青春18きっぷ」ポスター 25年分の歴史が写真集に!
『「青春18きっぷ」ポスター紀行』込山富秀(著)/講談社

ネットで人気だった過去のポスター


「ここ数年、特に行楽シーズンが近づくと、ネットなどで『青春18きっぷ』の過去のポスターやコピーなどが取り上げられ、話題になっているようです。調べてみると、人気がありファンも多いのに、ポスターをまとめた本が作られていない。さらに、制作サイドの話をまとめた本もありませんでした。そこで長年、ポスターのアートディレクターをつとめていらっしゃる込山富秀さんにご相談して、これまでのポスターと撮影秘話を1冊にまとめようという話になりました」

インターネットで検索してみると、確かに「青春18きっぷ」のポスターに関するまとめがいくつも見つかった。
やはりこのポスターに心を動かされている人たちが多いようだ。

美しい写真の撮影秘話も


このポスターの魅力は、なんといっても写真の美しさだろう。榎本さんによると、前半は初々しい表情をした少年、少女たちのポートレイトが中心だが、1997年以降は徐々に「鉄分(列車や駅、線路等へのフォーカス)」が増していくという。

「改札の向こうに水平線がまっすぐに広がっていたり、真っ白な雪原を列車だけがゆっくりと走っていたり。『ここは一体どこなんだろう?』と思わずにはいられない、美しい景色が数多く見られます。当たり前ですが、これらは全て日本国内で撮影されたものです。日本もまだまだ見るべき所、行くべき所がたくさんあることに改めて気づかれると思います」
ネットで話題の「青春18きっぷ」ポスター 25年分の歴史が写真集に!
キャッチコピー:「早く着くこと」よりも大切にしたいことがある人に。撮影地の厚床はサバンナを思わせる大平原だったそう。


また、ポスター1枚1枚に撮影時のエピソードが紹介されていて、それを読むと、1枚の写真を撮ることはこんなにも大変なのかと驚いてしまう。
イメージに合う場所を探して北海道中の駅をひとつずつ見てまわったり、スズメバチがビュンビュン飛び回っているところで撮影をしたり、晴れるのを待ち続け1週間雪の丘に通い続けたり……。

「携帯電話もGPSもデジタルカメラも普及していなかった時代の撮影は、今ではありえないくらい手間と時間がかかっています。そんな撮影にまつわる苦労話は、時にハラハラ、時にクスリと笑え、そしてどこか懐かしいような気持ちにもさせてくれます」と榎本さん。
撮影秘話では他にも、荒木経惟さんをはじめ有名写真家の名前を発見できる。

ネットで話題の「青春18きっぷ」ポスター 25年分の歴史が写真集に!
キャッチコピー:あの頃の青を探して。写真もコピーも「青春18きっぷ」にぴったり!


旅の醍醐味を思い出すキャッチコピー


そして、写真だけでなくキャッチコピーにもぜひ注目してほしい。
・もう3日もテレビを見ていません。
(1998年夏)
・大人には、いい休暇をとる、という宿題があります。(2009年夏)
・「きれいだなぁ」誰も聞いていないつぶやきも、いいものです。(2013年夏)
・空気は、読むものじゃなく吸い込むものだった、と思い出しました。(2013年春)
旅に対して誰もが無意識に感じているようなことが書かれていて、旅の醍醐味を思い出させてくれるのだ。

写真集は鉄道ファンやカメラ好き、旅行好きに好評だ。また、かつて「青春18きっぷ」で旅をした中高年の方々も懐かしい気持ちで手にしているという。
25年の歴史がある「青春18きっぷ」のポスターは、誰がみてもきっと楽しめる。

「この本の制作を通じて、日本にはまだまだ“そこにしかない”素晴らしい景色がたくさんあるということを知りました。ページをめくれば、『ここに行ってみたい!』と思う場所が必ず見つかるはずです。ぜひお手にとって、この夏の旅のプランに役立てていただけたらとても嬉しいです」

この夏は「青春18きっぷ」を使って、ポスターの撮影地になった場所を訪れてみるのもいいかもしれない。
(上村逸美/boox)