お台場の「ダイバーシティ東京プラザ」に行った際、必ず目にするのが建物前にそびえ立つ、実物大のガンダム立像。先日出かけた際も、その存在感に圧倒されつつ、子供の頃に見たアニメのロボットが現実にいるという、ちょっと不思議な感覚を改めて味わったところでした。
そんななか、ロボット関連の気になる本が発売に!
メカニカルデザイナー&アニメーターとして活躍している、やまだたかひろさんの著書『メカニカルデザイン解体新書』です。

本書は『マシンロボシリーズ』『エルドランシリーズ』『勇者王ガオガイガー』『バトルスピリッツシリーズ』など、やまださんがデザインしたロボットや武器、乗り物の設定資料をもとに、デザインの考え方やテクニックを解体したもの。早速、やまださんご本人にお話をうかがいました。


制作7カ月「30年分の蓄積をできるだけ」


まず、完成した本について率直な気持ちを。
「おかげさまで本年が画業30周年に当たりまして、デザイン画集のお話をいただいた時は大変嬉しく思いました。出版の玄光社さんから、メカニカルデザインに興味のある人やメカニカルデザイナーになりたい人向けの本にしたいと聞きまして、この際ですから、30年分の蓄積をできるだけ収める事ができたら……と考えました。今は感無量です。
作業は大変でしたが、編集の平山さん、瀬川さんやご尽力いただいた方々のおかげで完成できました。本を1冊創ることの大変さを実感できたのは貴重な体験でした」
アニメの現場で30年 やまだたかひろが語るメカニカルデザインの魅力と難しさ
基本の描き方は、本書用に描き下ろしたオリジナルメカニックキャラクターを例に紹介。

「30年分の蓄積をできるだけ」とのお話どおり、正直、こんなに披露してしまっていいの!? と思うほどの充実した内容。基本のテクニックから、“複雑化するメカニカルデザイン”、“CGと作画が混在するメカニカルデザイン”、“プロテクターとしてのメカニカルデザイン”など、7つの章にわけられ、さらに版権イラストの作品と描き方のテクニックまで、やまださんが手がけた作品を例に、それぞれ細かな解説付きで紹介されているのです! 本書の制作に7カ月を費やしたとのことですが、それも大いにうなずけます。

メカニカルデザインについて詳しく知らなかった筆者は、合体変型するメカの多様さや、パーツの種類の多さ、コンセプトの立て方、ギミックの考え方、玩具用ロボットとアニメ用ロボットのデザインの違いなど、何から何まで驚きの連続! と同時に、緻密で計算しつくされた内部構造、豊富なアイデアと想像力から生まれるデザインに引き込まれてしまいました。
アニメの現場で30年 やまだたかひろが語るメカニカルデザインの魅力と難しさ
実際に玩具になることを想定したロボットのデザインを紹介したページ。



独学で描き始め、「ヤマト」でプロの存在を意識


この仕事に携わって30周年というやまださんですが、いわゆる絵やデザインの学校で専門的に学んだわけではなく、アニメーションの会社に入るまで、なんと独学だったそう。そのことにも驚くばかりです。いつ頃から描き始めていたのか聞いてみると、「物心がついた頃から描き始めてました」と、やまださん。
続けて、詳しいお話も。

「映画やテレビ、マンガ、玩具の魅力的な怪獣、ロボット、メカが幼少時の頃からあふれ始めましたので、それらを手当たり次第に描いてました。先達の方々の素晴らしい才能を模写したことが絵の原点になってます。デザインらしきことを始めたのは小学一年生くらいからです。オリジナル怪獣から始まって「仮面ライダー」や「マジンガーZ」の自分バージョンを描いてました。小学六年生で見た、テレビランド増刊「宇宙戦艦ヤマト」に載ってるメカのデザイン画、設定画に衝撃を受けて、プロのデザイナーの存在を意識するようになりました。
その頃あたりからアニメブームになり、思い込みかもしれませんが、アニメや特撮のロボットやメカの発展に、自分の成長が合ってたのではと思ってます。それらから、卒業できずにメカニカルデザイナーに憧れるようになり……。絵やデザインの専門的教育は受けたかったですが、思い切って独学のままアニメ業界に入りました」
アニメの現場で30年 やまだたかひろが語るメカニカルデザインの魅力と難しさ
『マシンロボクロノスの大逆襲』は、メカニカルデザイナーになって初めてデザインを手がけた作品だそう。


メカニカルデザインの魅力と難しさ


やまださんにとって、メカニカルデザインの一番の魅力とは?
「子供の頃からの自分の夢をデザインに投影できることです。自分が乗りたいロボットやメカ、自分が見てみたいロボットやメカ、それらが宇宙に行ったり深海に行ったり……。そして、作品を観た方々がその夢を共有してくださった時の喜びは堪えられません」
アニメの現場で30年 やまだたかひろが語るメカニカルデザインの魅力と難しさ
より複雑な表現ができるCGにおけるデザインに関する解説も。

また、メカニカルデザインならではの難しさについては、こんなふうに教えてくれました。

「デザインするロボットやメカは基本的には未来志向的に表現する物がほとんどですので、想像力を養わないといけないことです。
80年代の作品で、時代設定が2030年という鉄道の駅の券売機をデザインしましたが、2030年に券売機は残ってるのでしょうか……。また、見てくれた人が、そのロボットやメカに憧れて乗ってみたい、使いたいと感じてもらえるようなデザインを心掛けてます。これは感覚的なことで自分なりになりますので、空想の物、実在する物、様々なロボットやメカを見て感覚を日々磨いてます」

たしかに、未来志向的な想像力が重要というのは、本書を見ていてもよくわかります。やまださんのデザインは、まさに、やまださんが培ってきた想像力の賜物ともいえるのではないでしょうか。

ところで、本書に収録されているインタビューで、「自分の作品が立体になるのは独特」と語っているやまださん。着ぐるみの怪獣や怪人のデザイン、本物の車のデザインもしたいそう。

また、ちょうど冒頭で触れましたが、「大河原邦男さんのガンダムみたいに自分のデザインしたロボットが実物大になったらいいですね」とのお話も。ぜひ見てみたいですね!
アニメの現場で30年 やまだたかひろが語るメカニカルデザインの魅力と難しさ
『勇者指令ダグオン』を例に、人間のフォルムに合わせたプロテクタースーツのデザインを紹介。

アニメの現場で30年 やまだたかひろが語るメカニカルデザインの魅力と難しさ
大河原邦男氏がメカニカルデザインを手がけたアニメ『太陽の牙 ダグラム』に登場するロボットをプラモデルとして商品化した際、やまださんが提案したギミック検証画。

最後に、やまださんからメッセージをいただきました。
「この本は、絵やデザインの専門的教育は受けてない一人のメカニカルデザイナーの30年の現場での経験値です。メカニカルデザインに興味のある人に楽しんでいただけましたら嬉しいです。ロボット、メカアニメやロボットの玩具、プラモデルをより楽しむ一助になりましたら嬉しいです。 そして、メカニカルデザイナー志望の人やメカニカルデザインをされてる人の参考になり、素敵なメカニカルデザイナーが、素敵なメカニカルデザインが新たに誕生してくれたら最高に嬉しいですっ!」

本書は、メカニカルデザイナーを目指している人にとっては、バイブル的な一冊になるはず。
また子供の頃、ロボットやメカに夢中になっていた人も、新たな発見があるのでは!? 様々な角度から楽しめること必至です。
アニメの現場で30年 やまだたかひろが語るメカニカルデザインの魅力と難しさ
『メカニカルデザイン解体新書』(玄光社)は、本日7月29日発売!

7月31日(金)には『メカニカルデザイン解体新書』の発売を記念した、やまださんのサイン会も行なわれるそうなので、気になる方はぜひ!
(田辺 香)