シンプル、かつ歌詞が異常に耳に残るこのPV「都立家政のブックマート / B.T.G. (Heavy metal song of bookmart Toritsukasei Group) 」が、“一度聴いたらクセになる”とTwitterで話題になったのは4月中旬のこと。



PVにはモデルガンを振り回す白人のボーカル、クレジットは「ドラム」なのにこけしを振り回す金髪男性、カレーの本を立ち読みするアジア系男性といったカオスなメンバーが登場。しかもこの曲、地味にiTunesで配信までスタートしている…!?
この都立家政のブックマート、実際はどんなところなのだろうか?

カオスすぎるPVが話題、都立家政のブックマートは多国籍空間 
Twitterで話題沸騰のPV「都立家政のブックマート / B.T.G. (Heavy metal song of bookmart Toritsukasei Group) 」より。


新宿から西武新宿線で約20分、都立家政駅から徒歩1分の場所にある「ブックマート都立家政店」。
遠目に見るとマンガや文庫本だけでなく古着、ゲーム機など雑多な商品が並んでいる。近づくと聴こえてくるのはやはりあの曲……店の前では部活帰りらしき中学生や高校生がPVをガン見している。やっぱり、気になりますよね?

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黄色と青の看板が目印。土日祝日のみ店頭で流しているPVに思わず立ち止まる人も。


PVではこけしを振り回している店長の河村さんに、お店についてあれこれ尋ねてみた。

このお店は以前に存在したブックマート社から河村さんが独立する形で名前を譲り受け、2009年にオープン。当初は文庫本やマンガ中心の品揃えだったそうだが、中古本&CDの大型店が苦戦している様子を見ながら徐々に服や雑貨を増やしていった結果、
「で、何屋なの?ってよく聞かれます(笑)」
という商品構成になってしまったのだそう。

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店主の河村陽介さん。趣味全開のPVからもうかがえるとおり大のメタル好きで、ラウドネスを筆頭に幅広く愛聴しているそう。


「扱っているのは基本は本やCDですけど、海外で買い付けたバンドTシャツや古着、おもちゃだったり、あとはジャニーズのグッズでレアものが、嵐を筆頭にかなりあります。あとは貴重なんで今売り物としては出してないんですけど、ジブリ作品だとかアニメのセル画もありますね。客層はカードゲームが好きな小学生から文庫本を探しに来るおじいちゃんおばあちゃんまで本当に様々で。僕がメタル好きなんで朝からメタルかけたりすると、お年寄りにうるさいって怒られたり(笑)」

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多彩な商品を扱う同店のおすすめアイテム例はこちら。写真左から書店店長が主人公の傑作ライトノベル『ブックマートの金狼』(KADOKAWA刊)。先ごろ来日したアイアン・メイデンの1stアルバム(写真右)のほか、アナログ盤はハードロック系やポップス系など60~80年代の作品が充実している。


噂のPV撮影秘話を聞いてみた


お年寄りに騒音扱いされるあのメタルなテーマソングは、河村さんのメタル仲間で音楽&映像制作を手がける「あいき堂」さんとのコラボで生まれたものだそう。
レコーディング&PV出演メンバーにはボーカルのジョエルさん(アメリカ出身)など外国人も含まれているのだが、お店に通うお客さんや商店街のご近所さんが友情出演してくれたのだという。

「ジョエルはうちのお客さんなんですけどパンクにすごく詳しくて、マニアックなジャパニーズ・パンクの作品を探しに来てたんですよ。彼が俳優もやってるんでフロントマンをお願いして、あと僕の友達でギタリストの大将くんが英語が堪能なので、ジョエルと一緒にやるのにもいいねということでレコーディング前日に声をかけました。さらに宿題で『超絶すごいギターソロをお願いね(はぁと)』って頼んだりして(笑)。途中に出てくるネパール人は近所のカレー屋さん。彼が『ギャラは出るのか?』って聞いてきたんで、『ギャラは出せないけど、君にはネパール人代表としてこのPVに出てもらいたいんだ!』って口説き落としたりして。組体操のピラミッドとかPVの中でやってることは、ほとんど撮影当日に店にあったものを使ってアドリブでやってます」

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嵐を筆頭にしたジャニーズアイドルのポスター、サインといったお宝アイテムもひしめく店内で、ひときわ異彩を放っているのが模造刀。実は外国人のお客さんに人気のため、「真田幸村モデルだとかいろいろそろえてます」とのこと。


おそるべき河村さんのネットワーク力。ジョエルさんのように、このお店にはマニアックなアイテムを求める外国人など遠方からのお客さんも多くやって来るという。

「以前に黒人のお客さんが『遊戯王』のカードを熱心に見てたんですけど、話を聞いたらサウジアラビアの方だったんですよ。現地ではチェスやトランプ並みにポピュラーな遊びで、カードも種類によってはかなり高額で取引されているそうなんですよね。そういった形でお目当てのアイテムをわざわざ探しに来る方もいるんですけど、ちょっと困るのが国によって作品名が違ったり、発音が本場すぎて聞き取れなかったりするケース。例えば“コデジアス”=『コードギアス 反逆のルルーシュ』だとか……。たまに買い物じゃなくて『役所に出す書類の書き方がわからないから教えてくれ』って言ってくる人もいますけど(笑)」

「うちは駄菓子屋みたいなもんです」


これまでの話からもなんとなく推測できると思うのだが、このお店は地元のコミュニケーションスポット的な役割も果たしている。

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中古楽器も扱っているが、書棚に無造作に置かれたこちらは売り物ではなく「子供たちが遊ぶ用」!


「カードゲーム目当てにやってくる子供も多いんですけど、夏休みになると1日に3回くらい『店長聞いてよ~』って言ってくる子もいて。だから僕、朝からずっと子供たちの話聞いてるんですよ。たまに発注ミスでカードを仕入れすぎちゃったのを子供たちに見咎められて“ドンマイ店長”ってアダ名つけられたり(笑)。でもブックマートの歌をうちに来る子供たちがなんとなく覚えちゃって、家でお母さんに『変な歌歌わないの!』って怒られたり、歌詞に出てくる“イングヴェイ(・マルムスティーン)”とか“ガンマ・レイ”を大きくなってから『あれ、アーティストの名前だったんだ?』って思わせられたら、それって面白いじゃないですか?」

都立家政という街のPRにも力を入れているという河村さん、
「昔都立家政に住んでたマツコ・デラックスさんの番組でいつか紹介されたいんですよ~」
と野望を語っていた。
それにしても“おもちゃ箱”という表現がぴったりなブックマート都立家政店。筆者もぶっちゃけ取材ではなく、ただただ遊びに行きたいような空間だったのでした。
(古知屋ジュン)