電話の受話器を当てるのは 右耳? 左耳?
「利き手は右、利き耳も右(もしくはその逆)」の場合、電話でメモを取るのにひと苦労!?
みなさんは電話の受話器を当てる耳が決まっているだろうか?

私の場合は受話器を当てるのは必ず右耳と決まっている。日常の会話やテレビの視聴などでは特に左右の耳を意識はしないけれど、電話だけは右耳でないと聞きづらい。


実はこれ、日々の生活でちょっと不便なことがあるのだ。
仕事での電話の場合、多くの人がそうだと思うがメモを取る必要がある。
電話は右耳で聞くが、メモは右手で取るという私の場合、右手でメモを取るために、空いている左手で受話器を持ち右耳に当てる。すると腕を交差させなければならず、体勢が苦しい。またコードのある電話だと、グルグルにコードがねじれてゆく苦労もある。

これは単に私が不器用であるため、と思っていたのだが実はそうではなかった。

そして、左耳で聞き、左手でメモを書く人にも同じ苦労があるというのだ。

人には利き手、利き足、利き目と同じように「利き耳」というのがあるのだ。
20年ほど前から利き耳の分析として、「電話の受話器」を当てる耳の調査を行っている群馬大学医学部の椎原康史教授(精神生理学)にお話をうかがってみた。
椎原先生の専門は精神生理学で、利き耳研究は「大脳の左右半球の機能差を調べていたのがきっかけ」という。
椎原先生自身も「利き手は右、利き耳も右」なので、電話では苦労されていたそうで、利き耳に注目したそうだ。

「実は、利き耳については両方聞ける人、『両耳利き』が多数派で、なおかつ、その人たちは、『電話を左耳で聞き、右手でメモを取る』ために不便を感じていないのです。
ですので、非常に強い右利きとか左利きで、右耳あるいは左耳でしか電話を聞けない少数派しか、『利き耳』という概念は理解できないし、実感できない訳で、研究する人も少ないのです」

例えば右が利き耳の人の場合、受話器を左耳に当てると、言葉の意味は理解できるし、音の強弱や高低もわかるけれど、「遠くで聞こえる」「何かがかぶさったみたい」といった違和感を覚える人が多いのだとか。

以前に先生が行ったアンケートの結果によると、電話での利き耳が右の人は約20%と少数派で、左の人が約30%、両耳の人が約50%、つまり80%の大多数は左耳で聞き、メモを右手でとる人だったのだそうだ。
私の場合、利き耳でない方に受話器を当てると聞こえてはいるのだけれど、何となく話に集中できないというか、会話がうわの空になってしまう。

「音は耳の奥の蝸牛(かぎゅう)神経が強弱や高低をとらえ、せき髄の上にある脳幹を経由して言語理解などをつかさどる大脳の『聴覚野』に伝わり、さらに左脳にある言語中枢で、言語処理(言葉の理解)されるのです。しかし、『利き耳』は、このような言語中枢レベルの話、例えば言語中枢が左脳にあるので、右から入った言葉の方が若干言語処理が速いなどという話とは、またちょっと違うようなんです。手足の感覚や運動については、右半身は左脳、左半身は右脳へと交差したつながりがあります。
しかし聴覚の場合、大脳半球に到達する前に既に交差していて、利き耳は大脳ではなくもっと原始的な生命中枢のある脳幹の部分の機能の左右差に関係するのではないかと考えています」

なるほど。私は単純に利き耳は、言語理解とか右脳左脳の関連のものだと早合点してしまったが、どうやらそういうことだけではないようだ。

椎原先生の専門は精神心理学。身体の生理的な変化を知ることによって、情動など心理過程の変化を可能な限り客観的に知ろうとする研究。どうやら「利き耳」研究は奥が深い研究のようである。

今のところは脳幹と利き耳の関係が関係しているでは? という仮説のもと、利き耳に関するデータを収集している最中なのだそうだ。
データ数がある程度集まったら研究を進めていくそうで、現在も椎原先生はウェブサイトで「電話による利き耳」アンケート調査を行い、データを収集されている。

「利き耳」に興味のある方はぜひ、アンケートに答えてみてはいかが?
アンケートでは利き耳以外に利き足、利き目のチェックもできる。

私は利き手が85%の確率で右、利き足は50%右。どうやら足は左右両足使いの模様。そして利き目が右62%、利き耳はなんと100%右と出ました。

「『利き耳』の研究はほとんどやっている人が少ないので、マスコミから1年に1回くらいは取材を受けます。
でもこれだけが研究の対象でないのでなかなか進んでいなくて……(笑)」と椎原先生。
取材でたまに色々な研究者の方にお話をうかがう機会があるのだが、「あっ、その研究はもう辞めました」と言われてしまうことが多々ある。そんな中、20年以上も一つのことをテーマに掲げて調べているというのはやはりすごいです。「利き耳」研究から新たな人間の不思議がひも解かれたらそれはそれは素晴らしいではありませんか。
(こや)

群馬大学医学部保健学科 椎原研究室