先日、友人からこんな話を聞いた。
「家に一人で居て、トイレに入ってたらドアの向こうで人が歩いているような気配がして……」

ちなみに友人はマンションの一階に住んでいる。

「俺ちょうどその時、窓開けっ放しだったし、誰か入ってきた! と思って。だけどトイレって武器何もないからさ……」
意を決した友人は「武器はないか何か武器は……」と考えた末、自分の排泄物しかない、というところまで追い詰められたそうだ。不憫でならない。お食事中の方、申し訳ありません。

結局、勇気を出してトイレを出たが部屋には何の変わったところもなく、友人が感じた気配は何かの勘違いだったということなのだが、私にはどこか笑い切れない気持ちが残った。もし、友人の杞憂が現実のものになった場合、私の部屋に武器はあるだろうか。


自分の部屋を見渡してみると、本とCDが乱雑に詰め込まれた棚にまず目が行く。『広辞苑』もあるのでまずこれの角で暴漢を一撃。重いし相当痛いだろう。いや、でも私自身が重度の非力なのでこの物知り鈍器を使いこなせるか不安だ。では、CDをフリスビーのように投げるしかないか。何か想像しただけでダメージが薄そう。
ちゃぶ台は重くて投げられないし……。となるともはや、物悲しいこけし(写真参照)を見せて暴漢にふるさとを思い出させる、ぐらいしか無い!

おそろしくなってきた私は、専門家にアドバイスをいただくことにした。今回お話を伺ったのは、「護身術ネットワーク」というサイトを運営されている「正柳館」の師範、上田毅氏。総合武道の「正柳館」は、年齢・性別を問わず、危険から身を守る護身技術を広める活動にも力を入れているのだ。上田師範によれば、「当団体は、周囲の生活用品を護身用具として暴漢から身を守ることを得意分野としております」とのこと。これは大変心強いです!

私の部屋にある物をリストアップし、上田師範にお渡しすると、それぞれの武器としての使用法を教えて下さった。
まず部屋中に散らばっている「本」。これについては、「本は、楯の代用として使え、刃物や殴ってくる暴漢からガードすることができます」とのこと。なるほど、攻撃することばかり考えていた私だが、本は防御に優れた力を発揮するのか!
「慣れると角を使うこともできて、攻撃面も優れていますよ」と師範。本、お前は無限の可能性を秘めているんだな。

「CD・DVD」は、想像通り、「投げて使うのが有効」だそう。「ただし、一撃で相手を倒せるものではないので、暴漢の気をそらして逃げるタイミングをつかむか、投げて気をそらせた後にすぐ本などで攻撃するといった他のものとの併用が必要です」とのことだ。
奥深い……。

部屋には「衣類やハンガー」もあるが、「衣類は襟の部分を持って広げて暴漢の前に出すと、防護幕として使えます。ハンガーは、木製のハンガーであれば、警棒の代用として使い、暴漢の刃物を落としたり、殴って来る相手の手を打ったりできます。針金ハンガーは長く変形させることができるのでムチのようにも使えます」と、かなり使えそう。ちなみに師範は木製ハンガーを車の中に常備しているそうだ。また「タオル類」は先端を結んでコブを作ると有用な武器になる。
余裕があれば先端を濡らすとより強力に。

「パソコン」や「ちゃぶ台」など、大きめのものは、暴漢の足元に倒して気をそらせるという使い方が適切。なるほどと思ったのが「ふとん」の使い方。「相手がふとんを踏んでいたら、そのふとんを引っ張って相手を倒すことができます」とのこと! 思いもよらない使い方だった。もちろん、可能な重さなら広げて投げつけることで相手の気勢を制することもできるという。こうしてみると私の部屋の中にも武器になり得るものがたくさんあるんだなー。
こけしは……やっぱり投げるしかなさそうだけど。

また、「普段、常備しておくと心強いもの」について伺うと、「バインダーや、買い物袋の中に雑誌を入れて持っておくと楯として使えるので便利です。スプレー類は、催涙スプレーの代用として使えるので、玄関やトイレなど各部屋に常備しておくといいですよ」とのアドバイスをいただいた。

トイレの中で恐怖を味わった私の友人のケースでも、芳香スプレーなどがあればそれを使うか、なければトイレットペーパーを丸ごと持って防御用にしたり、投げつけて一瞬のスキを作るという切り抜け方があるのでは、と提案をいただいた。排泄物を見つめてる場合じゃないぞ友人!

上田師範は「身の回りの物には系列別に基本の使い方がありますので、それを学べばより効果的な武器として利用できると思います」とおっしゃっていた。備えあれば憂いなし。興味のある方はぜひ下記ウェブサイトをチェックしてみてください!
(スズキナオ)