「『プリクラ』ってのは、何の略なんですかねえ」
京都に行った際、タクシーの運転手さんに唐突にそんな質問をされた。

「『プリント倶楽部』ですね」
なぜそんなことが気になるのかと思いつつ、答えると、妙に感心した様子でこう話す。

「ああ、なるほど~! 修学旅行の生徒たちに必ず連れてってくれと言われるのが、『プリクラ』なんですよ」

「プリクラ、このへんにありますか」とか「清水寺周辺でプリクラとれるところありますか」といった具合に聞かれるケースが多いほか、プリクラがある場所を事前にチェックしてくる生徒もけっこういると言う。
お寺や神社についてはさほど調べていない、興味もないのに、プリクラがあるゲームセンターはきちんと把握していたりするわけだ。

他のタクシー業界の人にも聞いてみたが、実はこの「修学旅行でプリクラを撮る」という行為、京都に限った話ではなく、大阪のUSJでも、東京ディズニーリゾートでも、北海道でも沖縄でも九州でも、横浜中華街でも定番になっているらしい。

修学旅行内で、班ごとにタクシーを1日チャーターして、寺社仏閣などを班単位でまわるというのは、昔からよくあったが、今はそうした班行動の予定の一つに「プリクラ」が予定されているということのようだ。
「ただ、プリクラに案内するのは良いのですが、一緒に入っていくわけには行かないでしょう? 修学旅行の班行動では、基本的にすべての場所にタクシーの運転手がついていくように学校側から言われるんです。でも、ゲームセンターの中に入っていって、ずっとついているわけにはいかないですからね」

ちなみに、班行動ではスケジュールを自分たちで組むが、そのコースの中に、学校側から指定された寺社など数カ所を組み込むことになっているケースが多いそう。

「先生方は生徒たちにお寺や神社の説明をするのでもなく、一緒に見るのでもなく、いくつかの地点にスタンプラリーのように立っています。そこを確実に通ったかどうかをチェックするのが目的ですが、生徒たちも先生が立っている場所だけ通ると、あとは自由で、ろくにお寺など見ちゃいません。男子生徒などは、タクシーからおりずに、駐車場の隅のほうで寝かせておいてくれなんて言う子もいますよ」

昔から、「中高生のとき、修学旅行でお寺や神社をめぐっても、正直なんだかわからなかった……」とか「大人になって改めて行ってみて、初めて素晴らしさに気づいた」なんて言う人は多いもの。
結局、後々まで覚えていることは、食事や夜の枕投げ・恋バナだけなんて人もけっこういるだろう。それはいつの時代も変わらないものだと思う。

そんななか、今では修学旅行の一番の目的になっていることもありそうな「プリクラ」。

一応、観光地限定フレームなどはあるとはいえ、実際のところちゃんと見ているのは、限定フレームでもなく、“その場所ならでは”のものでもなく、いつもと同じ「自分の写り」と「誰と撮ったか」だけだったりして……。
(田幸和歌子)