いきなりですが、 公立中高一貫校のことについてどれくらいご存じですか?

「存在は知っているけど、あまり詳しくは知らないわ。中高一貫だから高校受験の必要がなくて、人気があることくらいは知っているけど」と思ったあなた、確かに公立中高一貫校についてあまり詳しくはないようです。


実は公立中高一貫校の中には、中学から高校へと進学するのに受験する必要がある学校もあるのです。

中高一貫なのに高校受験がある!?


意外と知らない公立中高一貫校 学力だけでは受験突破できない
『公立中高一貫校選びの後悔しないための20のチェックポイント』(佐藤智著:ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)。公立中高一貫校の基本情報から学校選びのポイントまでわかりやすく書かれている。公立中高一貫校に興味を持った人はまず読みたい一冊だ。

「一口に公立中高一貫校と言っても3つの種類の学校があります」

そう話すのは『公立中高一貫校選びの後悔しないための20のチェックポイント』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)の著者である教育ライターの佐藤智さん。

「まず高校から一切募集をせず、中学入学時のメンバーだけで6年間過ごす中等教育学校。次に高校からも募集をする併設型というものです。併設型の場合は中学から入学した生徒は高校進学時に入試はありません。そして連携型というものもあります。
これは部活や学校行事で高校生が中学校に赴くなどの人的交流があるだけで、高校入学時には選抜試験を受けなければいけません」

これは驚きです。過去には知らずに「中高一貫校」といって入学して、入学後に高校受験があると知って驚いた人もいたようです。その他に私たちがあまり知らない公立中高一貫校の実態というのはあるのでしょうか?

「選抜は『適性検査』と呼ばれています。学力を問う試験というよりも、適性検査という風に位置づけられているので、『受験』ではなく『受検』と言われています」

でもそれは単に呼び方の問題なのでは?

「必ずしもそうとは言えません。算数の試験、社会の試験というように教科ごとに切って試験を行っておらず、自分の経験を語らせた上で論述させる筆記問題と作文と面接からなっているので、私立の中学入試とは要求されることも違います」
意外と知らない公立中高一貫校 学力だけでは受験突破できない
教育ライターの佐藤智さん 全国約500人の教師に話を聞いた体験をもとに、学校現場の事情をわかりやすく伝えると評判だ。

そもそも公立中高一貫校とは平成9年(1997年)に出た中央審議会第二次答申(以下「平成9年答申」)の結果を受けて1999年から始まった制度。平成9年答申では、個性的な人材、創造的な人材の育成、自分で課題を見つけ主体的に判断・行動し、問題を解決する能力、すなわち「生きる力」を育むことが教育には必要であるとしており、各自治体や学校の裁量の範囲を広げることも拡大することが重要としている。


そのため佐藤さんが解説してくれたように選抜制度も従来型のものとは異なり、また授業も高校からは各学校の裁量で学校設定教科・科目と呼ばれる授業を設定することが許されているなど、実験的な取り組みも積極的に行われている。

そうした尖端的な取り組みを公立の安い授業料で受けられるということで設定当初から人気が高まり、入試の倍率が5倍を越えるところも多出している。2013年現在で全国に450の学校が設置されており、今後新設予定の学校も多くある。

「新しい学習指導要領への移行によって、今後公立中高一貫校はますます伸びていくと思います。新しい学習指導要領はかなりのボリュームになっています。更に単にボリュームが増えただけではなく、たとえば理科などでは実験を重視するなど時間がかかるものが増え、暗記ではなく思考力を問われるものに変わってきています。
3年制の中学高校では途中高校受験に時間が割かれてしまうので、かなりきつくなりそうだという声が現場からも上がっています」

「さらに今品川区で注目されているように公立小中一貫校が増えていけば、選択肢が増えていく中でこれまであまり意識されてこなかった方も進路について考えるようになり、再度公立中高一貫校にも注目が集まっていくと思います」(佐藤さん)
意外と知らない公立中高一貫校 学力だけでは受験突破できない
公立中高一貫校では、学校設定科目と呼ばれる学校独自の教科や無人島サバイバル体験など充実した体験学習を特徴としているところが多い。写真はお茶の加工体験の様子。

尖端的な教育がほとんど授業料無料で受けられる公立中高一貫校、聞けば聞くほど素晴らしいものに思えるが死角はないのでしょうか?

「必ずしも順風満帆の学校ばかりとは限りません。公立の場合は私立と違って先生方が定期的に転校するので、学校の建学の精神を徹底させるのが大変です。また中学の先生は教育学部を卒業されていることが多いので生徒指導的なことに関心が高いのに対し、高校の先生は専門の学部を卒業されていることが多いので学科を教えることに興味が行きがちです。そうしたことから中学と高校の先生の間に分断があるケースもあります。さらに入学から大学受験まで6年間あるので、中だるみに対する対策も必要になってきます」(佐藤さん)

そうなると、必ずしも公立中高一貫校だからいいというわけでもなさそうだ。学校選びはどのようにすればいいのでしょう?

「まずホームページで建学の精神を確認した上で、実際の学校行事や公開授業に行ってみるのがいいと思います。
そこで実際に先生に色々と質問してみてください。中だるみにどのような対策を取っているか、中学と高校の職員室は一緒なのかなどということも聞いてみると参考になります」(佐藤さん)

いざいいと思える学校が見つかっても、入試もいわゆる中学受験のものとは違うということなので、受検勉強も一筋縄にはいかずに難しそうですね。

「適性検査を突破するのには教科学力だけでは駄目です。もちろん受検間際になってきたら過去問を解くなどの対策も必要ですが、もしまだ時間があるようでしたら旅行に行ったり、地域イベントに顔を出したり色々な経験を積むのもいいと思います。それらを含めて日常的なことのすべてが学びの場になります。海外のスポーツ中継を見ながら時差について考えたり、海外サッカーリーグの試合を見ながらその国の都市の名前を覚えたり、キッチンで料理をしながら産地について学んだりと言った具合です。
私たちが『勉強しなさい!』と言われてきた『勉強』とは異なり、あらゆるものから学ぶ習慣をつける必要があります。そうして徐々に馴らしていくことによって、結果的に教科横断的な知識が身についていくとおもいます」(佐藤さん)

なるほど。制度だけではなく、学習内容も変化していっているわけですね。最後にこっそり聞かせてください。佐藤さんご自身は私立高校のご出身とのことですが、もしお子さんが生まれたら公立中高一貫校に入学させたいですか?

「させたいですね。3年制の学校よりも部活動も充実しているところが多い上に、私立と違って色々な意味で多様性を持った生徒さんたちが集まるのは本当に魅力的だと思います」

どうやら小学生のお子さんのいる方は、一度公立中高一貫校について研究してみる価値はありそうですね。

(鶴賀太郎)