「新幹線ホームでの紙吹雪は犯罪?」「どこまでがのぞき見になるのか」「緑のおばさんを任命される人」――なぜ?どうして?という感覚を刺激されるテーマの数々だ。実はこれ、法律の本の目次である。


「法律」と聞くと、なんだか難しくて堅苦しそうに感じられるが、『あなたの知らない「ヘン」な法律』は取っつきやすい。相反する言葉だと思っていた「ヘン」と「法律」が両立する、ユニークな例が多数紹介されているのだ。

身近にある「ヘンな法律」の数々


選挙事務所で500円以上のおやつを出してはいけない 私たちは「ヘン」な法律に囲まれて生きている!
『あなたの知らない「ヘン」な法律』なかむらいちろう(著)/三笠書房、定価:637円(税込み)

本書の中でも特に驚いたのは、「うっかりヤジ馬になっただけで一発逮捕!?」というもの。ケンカを見物していた人も、刑事罰の対象にされてしまう場合があるという。もちろん、人を殴るといった暴力沙汰になれば、その当人は「傷害罪」となるわけだが、自ら手を出さなくてもそのケンカの"勢いを助けた者"は、「現場助勢罪」が成立してしまうのだ。
たとえば、「いいぞ、もっとやれ!」などとケンカを煽るような言葉をかけた場合には"勢いを助けた者"として、1年以下の懲役または10万円以下の罰金または科料の対象とされる、という。

読み進めていくうちに、どういった経緯で本書を出版されたのか気になり、担当編集者である番園さんに聞いてみた。

「編集部内で打合せをしている際、《安倍首相の"美容室でのヘアカット"は法令違反の疑いがある》との新聞記事が話題となり、他にもこのような、おかしな法律があるのでは?という話になりました。興味をもって調べていたところ、膨大な法律、規則、条例などの中から"ヘンな法律・条文"を選りすぐって紹介しているなかむら先生のことを知り、いわゆるお勉強ではなく、読んで面白い&話題のネタになる"法律雑学選"をつくれないかと、ご相談したのがきっかけです」

なるほど、法律雑学選という言葉はぴったりかもしれない。どれも私たちの身近な話題ばかりで、おもしろく、読みやすく、スッと理解できる内容だ。

まじめに作成された法律だから笑える


たくさんの「ヘン」な法律を、日常の視点から研究されている著者のなかむらいちろうさんに、本書の中で一番「ヘン」だと感じた法律について聞いてみると、

「選挙事務所で500円以上のおやつを出してはいけない(本書27ページ)が、最も『ヘン』であると思います。公職選挙法は公明・適正な選挙の実施が目的ですから、そのために細かな点まで規定するのはわからなくはないのですが、立法者が頭を悩ませて、"おやつ"の値段を決定する様子を想像すると吹き出してしまいます」と教えてくれた。

たしかに想像すると、子どもの頃、遠足の前はクラス中が"おやつ"の話題で持ちきりだったのを思い出してしまう。「おやつは何百円まで」といった決まりごとが、大人になっても、というより法律で決められているのかと思うと、本当に「ヘン」だ。


法律にもある"人間味"


この、一見すると「ヘン」だと感じてしまう法律。これこそが本書の魅力なのだと、なかむらさんは考えているそうだ。
「かつて、変な看板や誤植などを集めた『VOW(バウ)』という書籍がヒットしたことがあります。VOWの魅力は、"まじめに作成された"看板や新聞・雑誌の記事などが笑いの対象になるという点にありました。本書が対象とする法律は、"まじめに作成された"文書の最たるものといえます。そしてそんな法律にも、笑いどころや"へえー"と思える意外な一面がある、というギャップが、本書のオススメのポイントです」

最後に、なかむらさんは本書をどんな人に読んで欲しいのかをたずねてみた。

「雑学好きの方に加え、トマソンや路上観察などに興味がある方に、まずオススメします。年代についていえば、若い世代の方にも広くオススメしたいところです。大学の法学部あるいは一般教養で法学を受講する学生だけでなく、本年夏の参議院選挙から選挙権が18歳以上に引き下げられることから、ハイティーンの国会・地方議会に対する意識は高まっていると思われます。そのような若い世代の方に、"法律はつまらないもの、理解できないもの"というイメージを軽減して、笑いを通じて、法律にも"人間味"があることを理解していただければ幸いです」

(村上優美子/boox)