パリにたい焼き専門店が開店 フランス人にとってはワッフル感覚

フランスで「たい焼き」を、ときどき見かけるようになった。その多くは日本食関連の店で副次的に扱っているか、もしくは漫画やアニメ、ゲームなどの日本関連イベントブースであることが多く、一般的にたい焼きが深くフランスで広まっているわけではない。
ただ以前と比べれば、たい焼きの認知度は上がっていると感じていた。

そのような中、今年パリ市内南部13区に、たい焼きの専門店「タイヤキ・パリ」が開店した。同店を開いたのはカンボジアにオリジンを持つフランス人、姉のケオティダニ・ヨンさんと弟のダラ・ヨンさん。市内13区は大きな中華街がある地域で、中国のほかにベトナム、カンボジア、タイ、ラオスなどのアジア系食品店やレストラン、雑貨店が集まる。そのショッピングビルの一角に、タイヤキ・パリは店を構えている。
パリにたい焼き専門店が開店 フランス人にとってはワッフル感覚
ダラさん(左)とケオティダニさん(右)。ロゴに描かれた2匹の鯛は姉弟の結びつきをイメージした。


たい焼きはフランス人にとってワッフル感覚


タイヤキ・パリの特筆すべきところは、たい焼きを数あるメニューの1つとして扱うのではなく、それを専門として商売をしていること。日本であれば、たい焼きだけを出す「たい焼き屋」は普通だが、ここパリでは1種類だけに特化した日本食店は、まだまだ珍しい。


なぜパリでたい焼き専門店を開こうと思ったのか。そのきっかけは「パリでは、たい焼きがまったく新しいコンセプトだったから」とダラさんは言う。日本であれば一般的なたい焼きも、フランスではアジア系食品店に置いてある冷凍品か、ごく一部の日本食店に限られ、すしや刺身のようにフランス国内ならどこでも見つけられるものではない。4年前、ダラさんはたい焼きを中国の上海で初めて口にし、その後フランスで広めたいと思った。

なぜ店舗を中華アジア街である市内13区にしたのか。当初、日系商店が集まる市内中心部のオペラ地区で店舗を探したが、物件の値段が高くあきらめざるをえなかった。
そのため「このたい焼き屋がうまくいったら、ぜひオペラ地区でも店を開きたい」とダラさんは目を輝かせながら語る。

小麦粉の生地をベースとするたい焼きは、食感としてもフランス人の味覚に受け入れられやすい。「フランス人は大人も子どももワッフルが大好き。隣国にはワッフル大国のベルギーもある。加えてパリジャンは、いつも変化と発見を求めている。たい焼きはそんなパリの老若男女に紹介できると思った」とダラさんは述べる。



おやつだけでなく食事としても食べられるたい焼き


パリにたい焼き専門店が開店 フランス人にとってはワッフル感覚
コーンにたい焼きの生地を使ったアイスクリームたい焼き

タイヤキ・パリでは通常の小豆あんのたい焼きの他に、バニラクリーム、マロンクリーム、チョコレートクリームなども取りそろえる。たい焼きの生地の部分をソフトクリームのコーンのように使ったアイスたい焼きや、チーズやハムを入れて作った、デザート以外の食事として楽しめる、たい焼きもある。

「甘いだけではないたい焼きをメニューに加えたのは、おやつとしてでない面も提案したかったから」とダラさん。初めて購入する人は甘いたい焼きを注文する場合が多いが、食事系たい焼きも好評だそうだ。
パリにたい焼き専門店が開店 フランス人にとってはワッフル感覚
ハムとエメンタールチーズを入れて焼いたもの。食事系たい焼きで一番人気だ。

同店では自家製の小豆あん、バニラクリーム、マロンクリームを使用。ただ、小豆あんはフランスで馴染みある食品とは言えない。
「小豆は(デザートではなく)食事に使われる食材であり、それをとても甘く調理する『あん』に対して、驚くフランス人もいる」と、ダラさんはフランス人客の傾向も教えてくれた。

たい焼き専門店としてパリの先駆となったタイヤキ・パリ。上海でたい焼きを知り、パリで店を開いたフランス人のヨンさん姉弟は、日本食のグローバル化の一例だ。「多くのフランス人に、たい焼きというものをもっと知ってもらいたい」と語るダラさんの思いとともに、フランスで人々がたい焼きを頬張る姿を普通に見かける日も、近いかもしれない。
(加藤亨延)