なぜ肉じゃがは冷めるときに味が染み込むのか

肉じゃがを手作りして煮込んでいると、実家で母につくってもらったものや、外食店で出されるあのホクホク感や色の濃さがなかなか実現せず、「どうして?」と思ったことはないだろうか。

ネット上では、なかなか肉じゃがに味が染み込まない、という主婦からの悩みに対して、「冷ますといいんだよ」という他の主婦からのアドバイスがちらほらあった。
「冷ます」と味が染み込むのだとすると、そのメカニズムが気になる。和食研究家の神田麻帆さんに当たってみた。

冷めるときに味が染み込むのはなぜ?


なぜ冷ますと味が染み込むのか。神田さんは次のように述べる。

「一言で言いますと、温度が変化することにより、材料内の細胞や組織、その中にある水分などの体積が変化するからです」

一体、どういうことなのか。

「水は温度が高くなると膨張して体積が増えるという特徴を持っています。材料内の水分などにも同じことがいえ、加熱している間にどんどん体積が大きくなっています。
そして、加熱している最中に、材料の細胞や組織を押し広げ、材料の細胞壁や細胞膜を破壊します。そして材料内の水分などは煮汁に流出し、一部蒸発します。

一度煮終わった後に、今度は『冷やす』ことをすると、逆の現象が起きます。材料内の水などの体積は、徐々に小さくなるのです。しかし、破壊された細胞や組織は元に戻りませんので、加熱時にできたその空間に煮汁が流れ込んできます。これによって、味が入る・染み込むというわけです」

「さ・し・す・せ・そ」の順番で調味料を入れることもポイント


なぜ肉じゃがは冷めるときに味が染み込むのか

これで冷ます過程で味が染み込む謎が解けた。
しかし、神田さんによれば、肉じゃがなどの煮物に味を染み込ませるコツは、調味料を入れる順番にもあるのだという。

「すべての調味料を一気に入れるのではなく、『さ・し・す・せ・そ』の順番で入れることも大事です。まずは『さ』の砂糖から。塩は砂糖よりも分子量が小さく、材料に早く入り込み、材料の組織を硬く引き締めるという特徴を持っています。塩を先に、または砂糖と同時に加えると、材料に早く染み込んで、砂糖の侵入を妨げてしまいます。つまり、砂糖の味が入りにくくなり、しょっぱいだけの煮物になってしまいます。

『せ』の醤油も塩分を含むため、塩と同じような性質を持つことから、後から入れるようにします。また、醤油は香りが大事な調味料ですので、後から入れるものだと一般的にいわれています」

(石原亜香利)

取材協力
和食研究家 神田麻帆さん
料理界の東大、大阪あべの辻調理師専門学校出身。
大手食品企業の商品開発業務をレギュラーで務める。
東京都食育(栄養)講座、パナソニック「Bistro」料理教室、専門学校にての技術指導など講師経験多数。
完全オーダーメイドレッスン/マンツーマン指導専門の料理教室
「キッチンスタジオK」を主宰。
http://private-cooking.net/