※中国に渡って10年超。現在、「中国で最も有名な日本人俳優」と称される矢野浩二氏による特別提供のコラム。
【その他の写真】
私は中国に11年ほど住んでいる。たまに日本に帰ると、日本人の礼儀正しさやサービス、良心的なホスピタリティーに関心させられる。
日本人がついつい口癖のように言ってしまう「すいません」や「面倒をおかけして申し訳ない」。これらの言葉は、仕事や留学で日本にいる中国人が最も溶け込めない部分ではないだろうか?日本人の「すいません」はただ「すいません」だけの意味とは違う。時には「ありがとう」という謝意が加わる。しかし、一般的な中国人から見れば、頻繁に「すいません」と言われると逆に「遠慮し過ぎだよ」「他人行儀だな」「なんとなく距離を感じる」といった受け止め方をする。
私も北京に来た頃はよくお辞儀をしていたし、「すいません、すいません」を連呼していた。さすがに最近は腰から曲げるようなお辞儀はしなくなったかもしれないが、自覚があるわけではないので、軽い会釈程度はしているかもしれない。
ある晩、近くのコンビニで買い物をした帰り、マンション入り口の警備員がいつものようにドアを開けてくれた。私はつい軽い気持ちで「シエシエ(ありがとね)」と言った。すると、警備員はいきなりわたしの行く先を遮り、「あんた、何階に行くんだ?」と問い詰めた。この態度の急変は何を意味しているか、分かるだろうか?警備員が私のためにドアを開けてくれたことに対し、私が黙っていれば何もなかったはずなのだ。しかし、顔なじみの住人ならば言わないはずの「ありがとう」を言ったがために、その警備員は私を“よその者”と認識したのだ。かぶっていた帽子をとって会釈をしたら通してくれた。
日本人的な発想からすれば理解しがたい部分ではあると思うが、「ありがとう」と言わなくてもよいシチュエーションというものが、中国には歴然として存在している。言うほどのものでもない「ありがとう」。もちろん、必要な「ありがとう」もある。
例えば、飛行機内で食事をとる時、前方の人が座席シートを後ろに下げる。狭くなって食事しづらい。前の人にシートを少し戻してもらいたい。この場合、日本人はおそらく「すいません、シートを少し戻してもらえますか?」となるだろう。こちら側の願いを相手に聞いてもらっている、という気持ちから「すいません」という言葉が出る発想は理解できるし、日本的な低姿勢はけっして悪い事ではない。…