北朝鮮では2014年になってから、ミグ19戦闘機が3機も墜落したとされる。事故多発の背景には、軍用機の極めて無理な運用がある。
まず訓練が不足。部品調達もままならず、整備の状態は極めて悪い。そして「超年代物」の戦闘機をいまだに使用している状態だ。

 北朝鮮空軍のパイロットの訓練飛行時間は最も多いミグ29でも年間20時間以下といわれている。ちなみに航空自衛隊(空自)は150時間だ。北朝鮮のパイロットの7.5倍ということになる。


 そのうえ、北朝鮮の軍用機は機体の整備状態が極端に悪い。胴体のビスが浮いたままになっているなどの不十分な整備が横行しているために、空中戦などは一部の機体を除いて行うことはできない。

 今年立て続けに起きたミグ19の墜落事故は起こるべくして起きた事故といえる。

 事故原因は不明だが、パイロットの技量不足が大きいと思われる。その根底には飛行時間の少なさが挙げられる。

 なぜ北朝鮮空軍パイロットは飛行時間が少ないのか。
まず考えられるのはカネの問題である。自衛隊の要撃戦闘機F15は戦闘モードで飛行訓練をすると、1機当たりの経費が1時間で約200万円かかる。内訳は約8割が部品代、残りの約2割が燃料代だ。

 航空機は部品ごとに耐久性が違い、100時間飛行したら部品Aを交換しなさい、200時間飛行したら部品Bを交換しなさいといったことが、きめ細かく決められている。交換を怠ると老朽化して墜落事故を起こしかねない。

 特に戦闘機は振動が激しいからエンジンを支えているビスなどが折れやすいのだ。
カネがなくて飛行訓練ができないとすれば、燃料代がないのでなく、部品交換が十分にできない可能性が高い(SAPIO 2013年2月号)。

 北朝鮮空軍はミグ15からミグ29までを運用している。ちなみに、ミグ15の初飛行は第二次世界大戦終結の2年後である1947年とされる。朝鮮戦争でも用いられた機体だ。

 北朝鮮空軍の戦闘機運用は、空自でいえばF86-F15まで、つまり、空自創設以来の全てのジェット戦闘機を現在も同時に運用しているようなものである。予算不足で新規調達が出来ないとはいえ、北朝鮮空軍がいかに無茶な運用を行っているのかが分かる。


 戦闘機の新規調達どころか部品の調達すら難しいのが北朝鮮軍の実情である。このため、同様の事故は今後も続くだろう。(執筆:宮田敦司/編集:如月隼人)

【プロフィール】
宮田 敦司(みやた・あつし)
1969年生。日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程修了。航空自衛隊資料隊にて13年間にわたり資料収集及び翻訳に従事。退職後、ジャーナリスト、フリーランス翻訳者。
著書に『中国の海洋戦略』(批評社)ほか。


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