山下智久主演ドラマ『アルジャーノンに花束を』(TBS系/毎週金曜22時)の脚本監修として、野島伸司が参加している。精神遅滞者の青年・白鳥咲人(山下)が手術により天才的な知能を手に入れたことで知る、人間の心の真実に迫る本作。
これまで『家なき子』(日本テレビ系)など、センセーショナルなドラマを世に送り出してきた野島はなぜ今、このベストセラー小説をドラマ化に脚本監修として参加したのか。これまでの脚本家人生を振り返ってもらいつつ、近年のドラマを取り巻く環境について聞いてみた。

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 「ユースケ(・サンタマリア)さんがこのドラマをやった(2002年、フジテレビ系)以前から、僕はこの小説を題材にしたいと思っていた」と野島は切り出す。そして、「話的には、そのままドラマ化すると2時間で終わるが、この作品を連続ドラマにした場合、肉付けやテーマ性は多岐に渡って作れると思っていた」とその理由を語り、「今回はいい出来だったと思う。山下君が障がい者をやりすぎずに、癒し効果的な部分をうまく表現している。彼自身、相当チェックしてから撮影に臨んだんじゃないかな」と絶賛する。


 野島は過去に『未成年』や『聖者の行進』、『人間・失格』(いずれもTBS系)といった知的障がい者やいじめなどをテーマにした作品を扱っている。当時のことを野島は「抗議はかなりあった」と振り返るが、「最近では、『明日ママがいない』(日本テレビ系)でスポンサーが降りちゃったりね。正直、『これぐらいで降りちゃうんだ』って思ったよ(笑)。でも、殊更そういうことに気をつけてということはない。ネットの評判もあまり気にしない」と動じない。 「社会自体は昔も今もあまり変わってないと思う」と語る野島は、バブル期のトレンディドラマから現在まで、常に時代を背負ったドラマを作り続けている。
そのターニングポイントとなったのは『高校教師』(TBS系)だそう。「それまでは自分を消してでも、視聴率を取らなくてはならなかった。ある程度実績を積んでから、本来自分が書きたかったような世界をやってみたいと思っていた」と回想する野島。続けて、「もし、『高校教師』が成功してなかったら、それまでのラブコメを作っていた自分に戻ったかもしれない。良くも悪くもあの作品で一変した」と述懐する。

 また、野島作品というとテーマソングにもこだわりが垣間見える。
本作『アルジャーノンに花束を』はプロデューサーからの提案で、20世紀のアメリカを代表する最高のエンターテイナーの一人、ベット・ミドラーが歌う『ローズ』が起用され、そのほかの作品ではABBAやカーペンターズなど、リバイバルヒットを飛ばした楽曲は数知れない。「『主役のバーターで主題歌を』と言われることが多いし、それに嫌悪感があった。自分のドラマではそういったものを一切拒否して、自分が見つけてきたモノを使った」と野島。それが決まりごとになっていき、野島が書くということがわかると芸能事務所がバーターをあきらめるようになっていったという。「全部が全部僕のリクエストというわけではなくて、作品に合えばなんでもいいんだけどね」と野島は微笑を浮かべる。

 基本的に脚本を書く際にはアテ書きをするという野島。
最後に自身が手がけた過去作品の中で印象に残っている役者は誰だったか聞いてみた。「男性だといしだ壱成。あの頃の彼は日本のジェームスディーン的なきらめきと危うさが混在していた稀有な天才だと思う。女性では櫻井幸子。彼女は独特に画面をノーブルに染め上げている。彼女自体のストイックさがそうさせるんだろうけどね。
また、いなくなり方がいいよね。番組を伝説のままに残してくれている感じがある。自分の中では彼女あっての作品群だったので、できれば戻って来られたくはないなあ」と野島は笑った。(取材・文・写真:梶原誠司)

 野島が演技を絶賛する山下智久、そしてこれまでの作品で“稀有な天才”と語ったいしだ壱成が出演する、連続ドラマ『アルジャーノンに花束を』はTBS系にて毎週金曜22時より放送中。