ダウンタウンの浜田雅功はかつて、ドラマや映画によく出演していました。相方の松本が映画監督デビューする前まで芸人以外の活動に消極的だったのとは対象的に、浜田は小室哲哉と音楽ユニットを結成したり、後にアニメ映画『シュレック』の声優を務めるなど、副業に対してとてもポジティブなコメディアン。
その幅広い芸能活動の一つが、役者だったというわけです。
しかもコント仕込みの演技力はかなりの水準で、これまでに様々な作品で助演を務めた末、満を持して初のドラマ単独主演を飾ったのが、1996年放送の『竜馬におまかせ!』(日本テレビ)でした。脚本を担当したのは、現在、NHK大河ドラマ『真田丸』の執筆を手掛けている三谷幸喜です。

浜田雅功×三谷幸喜。夢のタッグが実現!


1996年当時の三谷といえば、『振り返れば奴がいる』『古畑任三郎』など、フジテレビ系列の大ヒットドラマを手掛け、売れっ子脚本家と呼ばれるようになったばかり。かたや、浜田も『夢で逢えたら』『ごっつええ感じ』などでの活躍により、飛ぶ鳥を落とす勢いにありました。

そんな2人がタッグを組むのだから、期待されないはずがありません。しかも、主題歌は『WOW WAR TONIGHT 時には起こせよムーヴメント』『GOING GOING HOME』でミリオンヒットを飛ばした、浜田と小室哲哉のユニット『H Jungle with t』が務めるという、磐石の布陣。もはやヒットは約束されているようなものです。

ドラマというより、コント風味な脚本


こうした前評判の高さから事前番組がOAされたり、初回放送分の枠が拡大されたりするなど、日テレ的にもかなりの力の入れようだった『竜馬におまかせ!』。しかし、蓋を開けてみたら、内容に批判が殺到する事態に。その最たる原因は、三谷が書いた脚本にありました。
なにがそんなに、視聴者の怒りを買ったのか? 理由は様々でしょうが、まず竜馬がコテコテの関西弁を使います。
それだけでも違和感なのに、勝海舟や岡田以蔵らと共にバンドを組んだりもします。さらに近藤勇がダンスを踊ったり、フランケンシュタインが登場したりと、かなり荒唐無稽な展開を見せたのです。また、松本人志も町娘役で度々出演。それは、もはや時代劇ではなく、『ごっつ』のコントの一つと言われても、差支えない絵面でした。

武田鉄矢が三谷幸喜に抗議文を送付


名誉のために言っておくと、喜劇作家の三谷らしいコメディテイスト溢れる本作には、好感をもつファンが数多くいたのも事実。しかし当然のごとく、従来の時代劇ファン・竜馬ファンは拒絶反応を示したのです。
特に、芸能界きっての坂本竜馬好きとして知られる武田鉄矢のキレっぷりときたら、半端ではありませんでした。彼は三谷本人に、こんな抗議文を送ったのです。

「維新回天の英霊を愚弄する低俗な内容、本人の墓の前で土下座して謝罪するべき」

まるで狼藉者に天誅を見舞わんとする、尊皇攘夷の志士のような物々しい言い草ではありませんか。草莽の士気取りのヒロイズムに酔った発言ではありますが、武田のように物騒な想いを抱いた視聴者は少なくなかったのでしょう。
こうした怒れる人々の溜飲を下げるためか、「『竜馬におまかせ!』のココがまちがってる!!」という史実検証番組を放映日の深夜にOAしたり、「これはコメディ」というテロップを入れたりなどの応急処置がとられました。けれども肝心の視聴率は伸び悩み、平均視聴率13.3%。
期待したほどの人気を得られずに、あえなく終幕を迎えたのでした。

これに懲りたのか、この『竜馬におまかせ!』以降、一切日テレでドラマを書かなくなった三谷幸喜。現在放送中の『真田丸』にも通じる、三谷時代劇の記念碑的作品なのに、いまだにビデオ・DVD化されていないというのは何とも惜しい限りです。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonより幕末青春グラフィティ Ronin 坂本竜馬 [DVD]