1996年。世紀末・日本において、一つのワードがメディアを賑わせました。
その名も「おやじ狩り」。

千葉県船橋市で発生した事件から、使われるようになった


この流行語が生まれるきっかけとなったのは、同年6月に千葉県船橋市で発生した少年グループによる強盗致傷事件。
調べによると犯人たちは、成人男性に暴力をふるって金品などを奪った自分たちの行為を「おやじ狩り」と称していたことが発覚。

以降、同様の事件が発覚する度に、マスコミはこの言葉を好んで使用するようになります。「また、おやじ狩りか」……そんな見出し及びテロップが、新聞・テレビを幾度となく飾り、あたかも日本を冒す病理の如くフューチャーされるようになったのです。

おやじ狩りはゲーム感覚だった?


80年代にヤンキーの間で流行った「ボンタン狩り」、90年代中ごろのエアマックスブームに端を発した「エアマックス狩り」など、襲撃の標的としたのは、いつだってモノでした。

しかしながら、今回の対象はヒトであり、おやじ。しかもいくら不況だったとはいえ、ここは先進国家・日本。
食うに食われず襲撃する……などということはありません。
彼らの動機はちょっとした遊ぶ金欲しさ。もっといえば、ゲーム感覚的軽いノリで、罪なきおじさんたちを襲っていたのです。

コンビニでたむろする若者を注意した大和田伸也


こんな理不尽この上ない「おやじ狩り」の被害に、不運にも遭ってしまった中年芸能人が俳優の大和田伸也です。

事件が起きたのは、おやじ狩りブームもすっかり過ぎ去った、1998年のある日のこと。
大和田は外出中、コンビニでたむろする若者数人を発見するや否や、注意しにかかります。もともと大和田は正義感が強いことで有名。
かねてより、街で喫煙などの非行に走る中高生を見かけては、大人代表として「キミたち!」と、説教していたといいます。

大和田のようなお節介焼きは、社会に必要?


ともすれば、「ウザいオヤジの自己満足」とも捉えられかねないこの行為。しかしながら、大和田のようなお節介焼きは、他者への無関心が常態化している現代において、一定数必要なのは間違いありません。

誰もが「当事者」になることを避けたいこのご時世。損得勘定を抜きにして、説教できる大和田のような大人は、多少疎まれながらも存在するべきなのです。

もちろん、正義にリスクは付きもの。大和田の場合も、コンビニで注意した不良たちがたまたま“キレやすい若者”だったがために、あえなく、返り討ちにあってしまいます。


『笑ってはいけない』で、事件のセルフパロディを演じた


普通ならば、多勢に無勢とはいえ、若造からボコボコにされたことなど、一人の男として秘匿しておきたい事実だったはず。

けれども、自分から事件のあらましを公表しただけでなく、2008年の大晦日に放送された『絶対に笑ってはいけない新聞社24時』へ出演した際は、バスの中で高校生を注意する⇒襲撃されるというセルフパロディもコミカルに演じていた大和田。その懐の広さたるや、天晴れという他ありません。

なお、今年で70歳を迎えるにも関わらず、大和田は「こちらが高飛車ではいけない。同じ目線で注意しないと」と、相変わらず、若輩者への指導に意欲的なのだとか。
ブームは終焉したとはいえ、いまだ、若者がおやじを襲撃する事件は多発しているため、くれぐれも無理はしないでもらいたいものです。

(こじへい)

※文中の画像はamazonより摩天楼ララバイ