その理不尽極まりない手口の数々を一気に紹介。
■“追い出し部屋”よりもっとヒドイ!
アベノミクスで景気は回復基調……とはいうものの、まだまだその恩恵を受ける企業は少なく、リストラ関連の話題は尽きない。
先頃、東京商工リサーチが発表したデータによれば、「円高修正と株高で上場企業の業績修正が目立つが、足元では2013年に入り、希望・早期退職者募集を実施した上場企業が26社(2月7日現在)と急増している」という。
なかでも最近、話題を呼んだのが“追い出し部屋”だ。会社側が“余剰”と見なした人員をそこに配属し、延々と雑用をやらせたり、もしくは何も仕事を与えなかったり、いわば“飼い殺し”状態にして会社を辞めるように仕向けるというもの。パナソニックやソニーなど、日本を代表する大企業でこうしたエグい追い出し工作が行なわれていることが発覚したのだ。
昨今のリストラ事情について、誰でも入れる労働組合「東京ユニオン」の副執行委員長、関口達矢氏がこう語る。
「かつては会社側が『人員を2割減らしますよ』という方針を打ち出してから退職者を募るスタイルが見られましたが、最近は個別に呼び出して退職勧告をするケースが多いです。まさに狙い撃ちですね。勧告を受け入れそうな社員を最初から狙っていて、会社にどんな貢献をしてきたかを問わないケースもあります」
東京ユニオンにはそうして会社に狙い撃ちされた労働者からの相談が多く寄せられているという。
では、具体的にどんな悪質な追い出し工作が行なわれているのか、紹介しよう。
まずは前述した追い出し部屋から。
●追い出し部屋
「リーマン・ショックが起きた2008年に部署が解散し、今は子会社の追い出し部屋的な部署にいます。
追い出し部屋送りどころか、出勤を拒む会社もある。
●在宅勤務
「会社の業績が悪化して、在宅勤務を命じられました。仕事内容はといえば、ひたすらプログラム上の不具合を発見するというもの。上司には『在宅勤務だから内職と同じだろう』と言われ、社会保険も適用されず、雇用形態も業務請負のような形となり、収入は激減。『これでは飼い殺しではありませんか』と抗議すると、『仕事があるだけありがたいと思いなさい』と言う始末。転職先を探しています」(ソフト制作会社・42歳)
●部署にデスクが不足
「会社が吸収合併されてしまったのです。
厳しいノルマも社員を退職に追い込む常套手段だ。
●達成不可能な業績改善計画
「オフィス用品を売っているのですが、ある日、月に20件のノルマを課せられました。それまで1ヵ月かけてようやく2件という状態なのに、達成できるわけがありません。しかも、PIP(アメリカ発の人事評価で、パフォーマンス・インプルーブメント・プランの略。
■会社に社内恋愛を仕組まれた例も!
続いては、こんなことまでするのか?というケースの数々を紹介しよう。
●私的メールの流出
「ウチの会社は派閥争いが激しくて、僕は社長派、同僚Sは反社長派だったのですが、仲は良かったです。ところが、この2月末に社長の解任が決定し、社長派の社員の上司が次々とリストラ。僕はそれまでSとは上司の悪口にメールで付き合っていたのですが、僕が書いた『××課長は経費についてうるさすぎる』という内容が社内にメーリングリストで出回り、普段から営業成績が悪かった私はすぐに解雇されました」(食品メーカー・35歳)
●子供じみた嫌がらせ
「成績が悪い社員ばかりを集めた部署『第2営業部』に回されたのですが、それからはもう子供じみた嫌がらせの毎日。
●喫煙回数をカウント
「私がリストラされた理由は『仕事中に喫煙室に行きすぎる』というもの。たばこを吸いに席を立つ回数を上司にカウントされていたようです。ある日、離席した回数をまとめた表を突きつけられました。上司たちも頻繁に喫煙しているくせに。一度、残業代カットのことで上司に文句を言ったことがあり、根に持たれていたようです」(流通・41歳)
●社宅の明け渡し
「会社が大口の契約を失ってから、給料は60%カットでボーナスはなし。挙句、『社宅を2週間以内に明け渡してほしい』と言われました。社宅はマンションなのですが、家賃が2万円で済むのです。今もらっている給料では、まともに家賃を払ったら月に4万円くらいしか残りません。弁護士と相談中です」(設備工事・39歳)
●社長室への配属
「情報商材を扱う会社にいます。販売部にいましたが、昨年の冬に突然、退職勧告を受け、拒否すると『社長室』に配属されました。社長の送り迎えだけでなく、社長の子供の幼稚園の送り迎え、社長宅の庭の手入れなど、仕事とは思えないことばかりやらされています。そうしているうちに、会社としては社長専用の運転手を雇うことになり、1ヵ月もしないうちに僕は追い出されました。『何か僕が悪いことをしたのでしょうか』と上司に聞いても何も教えてくれず、唯一、耳に入ってきたのは。『会社の野球チームに参加しなかったから』という話。そんなくだらない理由でこんな扱いを受けるとは」(情報商材販売・32歳)
●仕組まれた社内恋愛
「社内恋愛禁止という決まりを無視して1歳年下の女のコと付き合うことになったのですが、それが発覚して人事部から下請けの工場勤務に配置転換させられました。彼女ともすぐに別れることになり、結局、会社を辞めました。後でわかったのですが、なんと、すべては僕を工場に回した上司が仕組んだことで、彼女は以前からその上司と付き合っているそうです。やりきれません」(飲料メーカー・35歳)
●会社とグルのカウンセラー
「月1回、会社と提携しているカウンセラーのカウンセリングを受ける規則になったのですが、『昼間、精神的に疲れを感じますか?』『夜、眠れないでしょう?』『朝、起きられないでしょう?』と細かく聞いてくると思ったら、なんとかして『就業に難あり』という社員を探して退職勧告にもっていくためのシステムだったのです。私自身は『ノルマに対してストレスを感じます』と答えたのですが、それが退職を勧告する理由として『仕事がつらいのなら辞表を書け』と強要されました」(半導体メーカー・40歳)
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前出の関口氏の証言を裏づけるように、うだつが上がらないダメ社員だけでなく、フツーの社員までターゲットにする理不尽な追い出し工作の数々。いったい、どんな人が狙われやすいのか? ある大手旅行代理店の人事担当者はこう語る。
「会社側が狙い撃ちしやすいのは、『協調性がない人』『自分の仕事のやり方を押し通し、上司に言われても曲げない人』『上司とウマが合わない人』です。逆にリストラされにくいのは『仕事のスキルが高く、社内でこなせる人が少ない専門分野を持っている人』はもちろん、『人柄がよく、この人を切ったらまずいというような人徳者』『上司に好かれる人』です」
では、もし万一、このような追い出し工作をされてしまったら、どのように対処すればいいのか? 前出の関口氏はこう話す。
「なかなか難しいとは思いますが、同じような扱いを受ける仲間を見つけて団結して声を上げることが大切です。会社側も、外部に実態が知られるなど大事になったら困るので無視できず、きちんと交渉を行なわなければなりませんし、効果的です」
追い出し工作は、もはや誰にとっても、すぐそこにある危機なのかもしれない。
(取材・文/小林俊之)