最近は、「パワハラ」に関する意識が高まっており、「やる気がないなら帰れ!」「もう帰って良いよ」とキツイ言葉を投げかける上司も減ってきているように思います。
でも、昔からあるこの「もう帰れ」、本当に帰ったらどうなるのでしょうか?解説してみたいと思います。

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■本当に帰ったらどうなる?
まず、前提として、一般的に、労働者には「就労請求権」がないとされています。この就労請求権は、労働者が雇用契約の存在を前提に「働かせてくれ」ということを権利として認めるものですが、この権利は一般的には認められないとされているのです。
すなわち、上司から「帰れ」と言われた場合、「もう少し頑張らせてください!」と意欲を見せることは、労働者側の「希望」「要望」としては認められますが、「権利」としては認められないことになります。
では、上司から「帰れ」と言われた場合に本当に帰ったら、どうなるのでしょうか?これは、「業務命令」として帰れと言っているのか、それとも「懲戒処分」として帰れと言っているのかによって異なります。
業務命令によって帰れと言っている場合、これはあくまでも会社の都合で労働者を帰らせたものですので、原則として帰宅した場合でも所定労働時間分の賃金を支給しなければなりません(自宅待機命令)。

■懲戒処分の「もう帰れ!」の場合は
一方で、懲戒処分としての「出勤停止」をする場合、これはあくまでも罰ですので、出勤停止期間中の賃金は発生しません。

多くの場合、上司の「帰れ」はたんなる叱責で、部下の「もう少し頑張らせてください」という反応を期待するものでしょうが、そうでない場合もそのほとんどが自宅待機命令と解釈すべきものだと思います。
懲戒処分としての出勤停止処分は、そうそう簡単に出せるものではありませんので、仮に上司の一存で突然出勤停止処分を出してしまったとしたら、そのことのほうが問題です(この場合、まずは業務命令としての自宅待機命令を出したうえで、懲戒処分の是非を検討するのが良いでしょう)。
しかし、ここまで法律的なことを述べましたが、一般論として、もし上司から「帰れ」と言われたら、帰らずに「もう少しがんばらせてください!」ということが正解だということは言うまでもありません。

*著者:弁護士 原英彰(竹林・畑・中川・福島法律事務所。企業法務、特に人事労務分野を多く取り扱っている。労働組合との団体交渉の経験が豊富。