その名も「キラキラ系」業界──。ヘアサロン、ファッションなど、若い女性がお金を費やし、自らもその世界で働きたいと憧れるオシャレ業界のことだ。
しかし、キラキラ系業界の輝きは若者にとってまばゆいが、その実、労働環境はかなりブラックらしい。「週刊金曜日」(8月22日号/金曜日)特集「夢とやりがいに潜むワナ キラキラ系業界の裏側」はこうしたキラキラ系業界のブラックな闇に迫っている。まずは特集記事「おしゃれ願望を煽り倒す ファッション業界狂騒曲」では渋谷などのセレクトショップで働くアパレル(衣服)販売員の日常を取り上げているが、彼女たちは夜の副業が当たり前だという。
「19歳から26歳までの販売員の平均月給は約15万8000円だった。当然これでは生活はままならない。こうした販売員たちが副業に選ぶのが、キャバクラやガールズバーなどの"夜の世界"である」(同特集より)
平均月給が低い上に、アパレルブランドでは、店舗と販売員個人に売上目標が課せられている。
「セレクトショップなどを全国的に展開し、年商600億円を超えるアパレル大手の(株)クロスカンパニーでは、2009年に入社一年目の女性店長が極度の疲労とストレスで死亡し、過労死認定を受けている。この女性も売上目標を達成するため、自腹で月5万円以上の商品を購入することが頻繁にあった」(同特集より)
こうした行為は、もし、給料からの天引きがあれば労働基準法24条(賃金の全額支払い)、毎月買わされているならば労基法16条(損害賠償予定の禁止)違反の可能性もあるという。「上司から『今月売上が少ないから買ってよ』とお願いされ、一度給料をもらってから買ったとしても、上下関係があるのでパワハラにあたる可能性がある」(同特集より)と弁護士が解説する。
こうしたアパレル業界よりもさらにブラックなのが、平均給料がより低い美容室(ヘアサロン)業界だ。特集記事「今や信号機よりも多い 競争激烈のヘアサロン」によれば全国の美容室の店舗数は23万店(13年)。
「2007年当時の資料によると、基本給は11万5000円で残業代は支払わず、『教育費』などの名目で違法な天引きも行われていたという」(同特集より)
競争激化の中、アシスタントはタレントやモデルの仕事を取るため"体当たり"で営業に走るケースもある。
その世界で働きたいと憧れる若者が多いキラキラ系業界なだけに、いくらでも代わりの人材はいる、と消耗品のように企業は若者を酷使する。これは、ブラック企業の典型だろう。
しかし、働かされる側はブラック企業とは思わない(思いたくはない)。子どもの頃から憧れてきた職業のアシスタントになり、カリスマ的な店長の下、それぞれの夢を追いかけている周りの仲間と刺激しあいながら、自分の夢に一歩一歩近づいているはずだからだ。
安い給料ながらも、「やりがい」も多く、自分もキラキラしているはず......しかし、これって、ブラック企業にありがちな「やりがい搾取」だ。
「やりがい搾取」とは、いろいろな仕掛けでやりがいを錯覚させることで従業員を低賃金で働かせ、搾取するというもの。代わりがいくらでもいる若手は身体や精神がこわれるまで搾取する。ヘアサロン、ファッションなどのオシャレ業界だけではなく、テーマパーク・東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドなどでも見られるものだ。
夢を追いかけているはずの業界ほど、キラキラした輝きに目がくらんで見えにくいが、そのブラックな闇はかなり深いようだ。
(小石川シンイチ)