セブン&アイ・ホールディングス(HD)が9月18日、傘下の総合スーパー(GMS)、イトーヨーカ堂について「活性化が進まない店舗を中心に、約40店舗の閉鎖方針を固めた」と発表した。全店舗の2割に当たり、具体的な店舗名は明らかにしていないが、2020年2月期までに閉鎖するとしている。
この報道を受けて私は9月21日、あるテレビ番組に出演して解説したが、今回の決定の契機となったのは、ヤマダ電機が5月に46店舗を閉店したことにあると思われる。ヤマダ電機の場合、発表した日にはすでに3店舗を閉店しており、その月内に残る43店を閉めてしまった。混乱もあったが、電光石火というべき意思決定と、その実践だった。
戦略の方向転換というのは、このようでなければならない。イトーヨーカ堂の場合、具体的な店名とタイミングが発表されていないので、実際にはどうなるのか。
イトーヨーカ堂は業態としてはGMSであり、この分野で国内最大のイオンリテールと共に、突出した2強となっている(3位はユニー)。スーパーにはそのほかに食品スーパーが多数存在する。GMSと食品スーパーの両業態を併せたスーパー業界全体がそもそも長期的に退潮していて、業界全体の売り上げがピークを付けたのは1997年の17兆円弱だった。15年は13兆円程度となっている。
この間、特にGMSは不調で、イオンはマックス・バリュ、マルナカ、ダイエーなどを、セブン&アイHDはヨークベニマル、ヨークマートなどを傘下に収めている。
●GMS不調の理由
セブン&アイHDのスーパーマーケット事業を見ると、イトーヨーカ堂含む年商は2兆120億円だったが、営業利益は25億円のみである(15年2月期、以下同じ)。0.2%の営業利益率などは誤差の範囲で、「儲かっていない」。イオンもGMS事業の年商は3兆3550億円あったが、営業損益は16億円の赤字に沈んでいる。
GMS不調の理由は、一つには人口減と所得減という傾向が続いたということだ。そして、高齢化が消費行動を変えてきてしまった。
もう一つの原因は、ユニクロに代表されるように業態ごとの専門大型店のチェーンが各地に展開され、GMSでの購買機会を奪ってきている。この傾向も止まらないだろう。
小売業態は、大きな流れとして「大から小へ」という道を粛々と進んでいる。百貨店は「旗艦店主義」で一世を風靡したそごうが破綻し、2強時代に入ったGMSもその2強自身が不調にあえいでいる。
「大から小へ」ということで、コンビニが隆盛している状況となっているが、「小から無」への流れも加速している。「無」とは無店舗、すなわちネット通販のことだ。
●ヨーカ堂は売却すべき?
「大から小へ、そして無へ」という流れの中でセブン&アイHDが模索しているのは、オムニ・チャネルだ。ネットを駆使してリアル店舗のビジネスと融合させるというのだが、現段階では試行段階の域を出ない。顧客に家に専用端末を置いてもらって、注文があれば届けるということを目指しているのか。
セブン&アイHDに関して私が前から提言しているのは、イトーヨーカ堂は売り払って、コンビニ事業に特化するべきということだ。イトーヨーカ堂の年間売上高は1兆3000億円(単体)に上るにもかかわらず利益がほとんど出ていないし、今後業績は悪化していくだろう。しかし、今売却すれば資産価値などから数千億円規模のキャッシュが手に入ると思われる。売却先は米ウォルマートか仏カルフールなどが候補になってくるであろう。
一方、同社のコンビニ事業は、2兆7277億円の年商で2767億円の経常利益という素晴らしい業績だ。
鈴木敏文セブン&アイHD会長が「イトーヨーカ堂を立て直すまでは引退できない」としているなどとも伝えられているが、私は信じていない。そんなことは老害経営者が引きたがらない理由として語ることであり、名経営者である鈴木氏の最後の大仕事としてイトーヨーカ堂売却を期待したい。
●脱小売化するイオン
一方、イオンの場合は、創業・岡田家の経営方針もあり、また現実的な選択の可能性としてGMSの事業売却はないだろう。
しかしイオンをグループ総体としてみると、実は小売業ではないのだ。前述したようにGMS事業はすでに赤字事業だ。代わりに15年2月期で金融事業が530億円、ディベロッパー事業が430億円、その他が300億円の営業利益を叩きだしている。
ディベロッパー事業での主体は、イオンモールに代表されるショッピング・センターの開発・運営だ。GMSとしてのイオンを核テナントに置くことにより、多くの小売業にテナントとして入ってもらい、家賃収入を稼いでいる。イオンのディベロッパー事業は、06年から営業利益ベースで安定的に400億円強を生み出し続けている。
イオンモールをどこかに新しく開設するとして、GMSであるイオンはフラッグシップとして欠かせない。トータルのビジネス戦略としては、テナント募集の撒き餌という性格のほうが強いのではないか。イオングループは不動産開発の企業グループになったととらえるほうが、利益構造的には理解しやすい。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)