破天荒でハイテンションな石原さとみが見られるということもあり、11月30日放送の第9話まで毎回平均視聴率11%以上(ビデオリサーチ調べ、関東地区)をマークしているドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)。「現実離れしすぎ」ともいわれるストーリーはさておき、放送のたびに話題となるのが、石原演じるヒロインのファッションだ。



『校閲ガール』は、出版社で文章や文字の誤りをチェックする校閲部に配属された主人公・河野悦子が、不本意ながら奮闘する“お仕事ドラマ”。主人公はファッション誌の編集者に憧れている設定のため、石原の派手で華やかすぎる衣装が毎回、「かわいい! マネしたい」「いや、ダサすぎ」などと注目され、視聴者の間で賛否両論が巻き起こっている。

 そこで、石原が『校閲ガール』で着ている衣装について、ファッションの専門家に評価を聞いてみた。

●普通の女子はとてもマネできない?

「『校閲ガール』の河野悦子のファッションは、一言でいえば『ファッション誌が大好きなスゴい読者』。ロックテイストな衣装もあれば、レトロな柄のワンピースをシンプルに着こなすこともあり、ジャンル分けするのは難しいですね。『どんなファッションにも挑戦する女の子』という印象です」と話すのは、雑誌、広告などで活躍するスタイリストの伊藤彩香氏だ。


 確かに、「独特なファーがついているスカート」や「幾何学模様のガウンを羽織る部屋着」など、石原が着る派手で華やかな衣装は、ハイテンションな役柄とうまくマッチした独特のスタイルだ。

「アイテムの組み合わせ方も無理をしていなくて、目を引くスタイリングです。ただ、アイテム一つひとつを見ると、普通の人は手を伸ばしにくいものを選んでいるように感じますね。主人公の『自分が好きなものを着る』というテーマが徹底されているファッションなんです」(伊藤氏)

 ネット上では、若い女性の視聴者から「河野悦子のファッションやメイクをマネしたい」との声が多数聞かれるが、伊藤氏によれば、「彼女のファッションはマネしやすいように見えて、どれも難しいスタイリング」という。河野悦子というキャラクターが持つ「さまざまな服を楽しむ」という軸にブレがなく、多少気が強くないと着られない強気のファッションだという。

●『逃げ恥』新垣結衣の衣装は正反対?

『校閲ガール』に限らず、ドラマの登場人物のキャラづくりには衣装が重要な役割を担っている。


「私はテレビドラマのスタイリングがフィールドではないので、あくまで一視聴者としての意見ですが、スタイリストの目線で見て感じるのは『衣装は人物像を構成する、ひとつの要素になっている』ということ。『その人物が好きそうな服装』という一貫性を感じることが多いです」(同)

 たとえば、今期ドラマのなかで『校閲ガール』以上に話題を集め、高視聴率をマークしている『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)でも、衣装がキャラづくりに一役買っている。『逃げ恥』は、新垣結衣演じる主人公・森山みくりが就職に失敗した上に派遣切りに遭い、星野源演じる津崎平匡と「仕事としての結婚」を選ぶというストーリー。みくりは、家庭的で地に足がついているというキャラだ。

「そのため、みくりのファッションには、トレンドを取り入れつつも長く着られるものを選ぶ、合理主義的な一面を感じます。そういう意味では『校閲ガール』の主人公と真逆。
今期ドラマの2大ヒロインが衣装的にも正反対というのは、とても興味深いですね」(同)

●深田恭子が着用したコートは売り切れに

 ドラマの主人公のファッションが視聴者に与える影響も、年々大きくなっているという。

「1年前に放送された『オトナ女子』(フジテレビ系)では、篠原涼子さん演じるキャリアウーマン・中原亜紀のファッションが注目を集め、今年1月期に放送された『ダメな私に恋してください』(TBS系)では、深田恭子さんが演じたヒロイン・柴田ミチコが着ていたコートが売り切れになるほど人気となりました。

 最近では、ドラマの放送が終わると同時に登場人物が着ていた衣装についてテレビ局に問い合わせる視聴者もいて、ネット上ではすぐに衣装のブランドが特定されるくらいです」(同)

 そういえば、やはり石原がヒロイン・サエコを演じ、「あざと可愛い女子」と絶賛された2014年1月期放送の『失恋ショコラティエ』(フジテレビ系)では、膝上丈のミニスカートなど、ふわっとしたニットの衣装が多用され、その男ウケ狙い全開のファッションが注目を集めた。

 視聴者や消費者にすれば、人気女優が衣装として着ることで、自分がその服を着たときのイメージがしやすいため、購買意欲にもつながるのだという。

「出版業界では近年、ファッション誌の休刊が相次いでいますが、『石原さとみがドラマで着ているワンピースかわいい!』といった女子たちのつぶやきをSNSで見ると、メディアは変わってもファッションに興味がある層は減っていないことを実感します。以前ならファッションのお手本はファッション誌だったのですが、それが今はドラマに移行している印象がありますね」(同)

 今、そのお手本となる代表的な存在が、ファッション誌が大好きな『校閲ガール』の河野悦子というのも、少々皮肉な話といえる。


●石原さとみのファッションは男ウケ無視?

 ただし、最初に述べたように、石原演じるヒロインのファッションは簡単にマネできるものではない。そもそも、「これ、一般人は着て歩けないよね?」というツッコミが入りがちな服装が多い上、特に小物使いに関してはプロでもうなる工夫が施されているという。

「河野悦子のファッションはどれも特徴的ですが、小物使いはスカーフの巻き方ひとつとっても首に巻いたり髪に編みこんだり、腰に巻いてベルトにしたりとパターンが豊富。アクセサリーも、ハーフのタートルネックにチョーカーを合わせるなど、トレンドの取り入れ方もうまいのでスタイリストとしても勉強になります」(同)

 伊藤氏によると、河野悦子は特筆して衣装替えが多いわけではないが、そのたびにヘアスタイルから服のテイスト、アクセサリーまでガラッと変わるため、一つひとつのファッションが印象に残りやすいという。しかも、ほかの登場人物の衣装は落ち着いた色が多いため、ヒロインの華やかなファッションが余計に際立つのである。

「ヒロインが活躍するお仕事ドラマでファッションにも重点を置いているため、女性の支持率は非常に高いと思います。
その一方、主人公のファッションは男性ウケをまったく狙っていないので、男性の視聴者は石原さんのかわいさを楽しむことがメインになるでしょう(笑)。

 とはいえ、河野悦子はキラキラなファッションをしていても、夜中まで残業したり自宅で仕事をしたりするなど、『仕事第一』な面も持っています。もしかすると、『校閲ガール』によって、おしゃれが大好きな女子に対する見方が変わる男性も出てくるかもしれません」(同)

 真っ白なワンピースや派手な女優帽など、まるで上流階級の園遊会にお呼ばれしたセレブのような服装で仕事をする河野悦子だが、それも「ファッションが好き」という軸がブレていない証拠なのだ。ファッションもキャラも破天荒でエッジの効いたヒロインが活躍する『校閲ガール』は、12月7日に最終回を迎える。
(文=谷口京子/清談社)