ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第77回 『全部、言っちゃうね。~本名・清水富美加、今日、出家しまする。
~』を読んでみた

「千眼美子の本、家のポストに放り込んどいたから、 今回はそれでよろしく」という編集氏からのメール。恐る恐るポストを見に行ってみると、確かにポストに入ってましたよ、『全部、言っちゃうね。本名・清水富美加、今日、出家しまする。』が。俺、これから、これを読んで感想を書くのか…。

 読後の感想としてはまず、字が大きくて非常に読みやすいです。

読みやすいというのは良いことです。読み終わるまで、一時間かかりません。読むのに多く時間を割かなくてもいいのも評価できるところです。逆にいうと、あっという間に読み終わるのでコスパが悪ともいえます。以上!

 って、そういうわけにもいかないですよね。なんか、気になったことをポツポツ書いていこうかと思います。


 千眼さんの語った内容を文字に起こしたという体の本なのですが、実際のところは本人がどこまで語ったことなのかはわかりません。そこは今の私には事実を確かめることはできないので、文章の印象から語っていくことになります。
 全体的な印象としては、非常に楽しそう。レプロ時代のつらかった体験についても語られていますが、それすらたまにユーモアも交えたりしながら語られていて、全体としては希望に溢れているような生き生きとした印象です。まあ、苦しかった生活から解放された上に、千眼さんにとっては神にも等しい大川総裁に直接対面しているわけですから、それは幸せでいっぱいになっても不思議ではありません。
 一番、面白かったのが大川総裁による自分の守護霊インタビューを読んだ感想です。
「冗談言ったり、話そらしたり、全然話かみ合ってないし、勘弁してよって感じでした。」(p.134より引用)と語られていて、自分の守護霊があんな感じだったとはショックだったという意味の記述もあります。なんというか、出家するほど幸福の科学の教えに帰依している千眼さんにとっても、守護霊インタビューというのは素直には納得し難い内容だったわけですよ。
 そういう記述を読むと「そこがおかしいと思うんなら、気づけよ!」と思う人は多いでしょう。でもね、何かを信じたい人にとっては、こういうことはたいした問題ではないのです。それを信じなければ自分のアイデンティティが失われてしまうのです。大川総裁は絶対に正しいという答えを前提に全てが成り立っている以上、守護霊の様子がおかしいのは自分の守護霊が悪いのであって、守護霊インタビューという形式自体は絶対に間違っていてはならないのです。
その前提がなくなったら自分が壊れちゃいますから、どんなにおかしいと思うことがあっても、なかなか前提を疑ったりせずに、思考停止状態で矛盾をスルーしてしまうもんなんですよね。
 まあ、こういう教団にとって、あまり得にならないようなことは教団内の他人がなかなか思いつかないだろうから、本人の語りおろしの可能性は非常に高い気もします。

人は何を信じてもいい

 幸福の科学の今回の動きというのは非常に人気取りに走っている感じがあります。最近、話題になることが多い『芸能プロダクションの闇』というか『レプロの闇』。それと立ち向かう正義のイメージを作って信者獲得を狙っているように見えます。しかし、彼女を追い込んだレプロに問題があるのは確かですが、幸福の科学は彼女の本当の味方なのでしょうか? 敵の敵は必ずしも味方ではなく、それは別の敵でしかないかもしれない。

精神的に追いつめられて弱っていた彼女につけこんで、広告塔として利用しようとする幸福の科学もまた本当の意味での彼女の味方ではないのではないでしょうか? レプロも幸福の科学も強い力を持っている団体です。芸能人からレプロのやり方が「昔からそうなんだから」と擁護される一方で、めんどくさい相手だから幸福の科学を非難することもせず、彼女ばかりが「無責任」だと責められる。ほんとひどい話です。
 彼女は親の代からの幸福の科学信者なわけですよね。そういう人が精神的に追いつめられた時に、子供の頃からの信仰にすがってしまうのは仕方がないことのような気がします。物心ついた時には価値観の根底にそれが植え付けられているのだから。
そこにいっちゃいますよね。それをバカバカしいとかいうような人間は想像力も思いやりもない人間だと思いますよ。
 宗教というのは本来生きている人間の心の平穏のためにあるものです。それを信じると現実が良くなったり、信じないと現実に罰が当たるというようなものであってはいけないはずなんです、少なくとも現代の日本においては。新興宗教の中には、現世利益をうたったり、信じないと罰が当たると脅したりする団体もあります。さらには、心が弱っている人につけこんで財産を巻き上げようとする問題外のところすらあります。自分の欲に都合よく相手の精神をコントロールすることで偽りの心の平穏を与えることが本当の救いとは思えないです。こういうやり方は一部の悪質な宗教に限ったことではなく、芸能プロだって、会社だって、学校だって、あらゆる組織の中に見られます。千眼さんの場合、芸能界で頑張って成功するためには色んな理不尽を受け入れなければならないという、それまでの『信仰』が崩れた時に、別の『信仰』につけ込まれてしまったような気がします。
 人は何を信じてもいいんですよ、それが本当に自分で選んだものなら誰が何を言おうと信じていいんです。(それはあくまで原則論で精神的世界の問題で、現実では不利益を受けたり刑事的な処罰を受けることだってあるでしょうから、各自がよく考える前提です。)自分の意志で何かを信じるのと、他者が上手いことすり寄っていってコントロールして、選ばざるを得ないようにしておきながら、さも自分が選んだように思わせて信じ込ませるというのは違うんですよ。特に宗教/思想の勧誘をしてくる人は危険です。他人に影響を受けて何かを信じるようになることはあります。しかし、それは他人の行動や主張をこちらが見て感銘を受けることから始まるものです。こちらの個別の事情に寄り添ってきて、実のない言葉で勧誘してくるものに、動かされるべきではないのです。
 何を信じるのも結局は同じ、どれも偽りの心の平穏ではないかという話もあります。まあ、そうかもしれません。しかし、他人の心に割り込んで偽りの平穏を与えるという行為は全然違う話です。自分が勝手に信じたことで人生が台無しになるのは本人の責任ですが、他人に信じこませて他人の人生を台無しにするのは、信じ込ませた奴の方が絶対に悪いのです。魔法はいつかとけてしまいます。魔法使いが生きているうちは魔法が有効だとしても、死んだ後に魔法がとけてしまった人たちのことは知らないとかいうのは非常にひどい話です。
『仮面ライダーフォーゼ』の時の清水さん、とても可愛いかったですよね…。

(隔週金曜連載)※今週は都合により日曜掲載

写真:『全部、言っちゃうね。本名・清水富美加、今日、出家しまする。』千眼美子(幸福の科学出版)
http://books.rakuten.co.jp/rb/14707272/

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【ロマン優光:プロフィール】

ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。

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http://mensbucchi.com/rensai-bn/20160322204147 (コピペして検索窓に)