こんにちは、世永玲生です。元コンシューマーゲームのゲームデザイナー/ディレクターで、現在はWebプロモーションやUI/UXの改善等の仕事をしつつ、たまにソシャゲのイベント設計などでゲームにもちらほら関わってます。


 さて、突然ですが皆さんポケモンGO楽しんでますか?
 2016年7月22日のリリースから7ヶ月以上が過ぎたこともあり、流行のピークも過ぎてリリース時の様に熱中している人はほとんどいないなんて声もちらほら聞きます。
 その一方で、駅構内や電車の社内、そして喫茶店等で熱心に画面をシュッ!シュッ!としている中高年層はまだまだ健在。
 そこで今回は、「なぜ中高年層にポケモンGOはウケるのか」について、僕なりの分析をしてみようと思います。

◆最初にいっておくとこの継続率は驚異的

 「ポケモンGOは失速した」「もう終わり」なんて言ってる人もいますがはっきり言って終わってません。
 リリースから2ヶ月弱で5億ダウンロードを達成し、5つの項目でギネスレコードを塗り替えたこのビッグタイトルは、そのリリースの爆発的な広がりの反動で、離脱したユーザーの「総数」もまた驚異的なため、ネガティブな意見をSNS等で見ることは確かに多いのですが、実際のところは中高年層が根強くささえつつも、若者層での人気も現在も堅調。
 それは数字が物語っています。

 一般的にソシャゲの世界ではD30(1ヶ月継続率)と呼ばれるものが15%を超えると成功、20%を超えると大成功と言われています。ちょうど、去年の12月に「アットホームボックス」がポケモンGOの継続率についての調査を行いました。さてそれによると……

「Q.「ポケモンGO」はダウンロードしましたか?」で「はい」と答えた人にお聞きします。まだ「ポケモンGO」で遊んでいますか?(アットホームボックス調べ)

「ポケモンGO」は中高年向けのTinderになれるのか│世永...の画像はこちら >>
 

 なんと、女性40代では脅威の71.4%。男性40代で50%、一番継続の低い20代男性でも38.2%を叩き出しています。 しかも、この数字はリリースから5ヶ月後の数字です。


 別の調査も見てみることにしましょう。

「ポケモンGO」は中高年向けのTinderになれるのか│世永玲生 ~おじさんおばさんがポケモンGOにハマる理由~
写真を拡大 株式会社ジャストシステムのネットリサーチ「Fastask」による(Marketing Research Camp)

 こちらはリリースから4ヶ月後の「Marketing Research Camp」の調査結果です。こちらサマリーの数値が独り歩きをして20代の継続率が29%に……という発言をしている人も散見されていますが、これは「利用率」であって、「継続率」ではありません。

 それでは「Marketing Research Camp」が提供している調査報告書を詳しく見てみましょう。

「ポケモンGO」は中高年向けのTinderになれるのか│世永玲生 ~おじさんおばさんがポケモンGOにハマる理由~
写真を拡大 株式会社ジャストシステムのネットリサーチ「Fastask」による(Marketing Research Camp)

 こちらの「以前から継続的に利用している」と「以前は利用していたが今はしていない」の総数に占める「以前から継続的に利用している」の割合が継続率ですので、計算してみます。
 すると、約3ヶ月後の継続率は10代で30%、20代で49%、30代で43%、40代で40%、そして50代で56%と高い数値をはじき出していることがわかります。

先に述べた通り、一般的な「スマホゲーム」の継続率の常識から言いますと、これは「素晴らしい」数字になります。特に中高年層で高い継続率が目立ちます。
 では、それらの層でなぜここまで高い確率で継続プレイが行われているのでしょうか。

◆ポケモン黄金期世代と隠れ黄金期世代

 まず、年代ごとの属性を掘り下げていきましょう。
 リリース時の使用率において高い数値を叩き出している、20代と30代を見てみましょう。20代後半~30代前半は「ポケモン金・銀」が発売された1999年に小学校中学年~中学生を過ごした世代です。

 僕は「金・銀」の発売時にはソニー・ミュージックエンタテインメントで働いていて20代中盤でした。
 エンタテインメントの会社で、プレイステーションビジネスを行っているSCE(当時)は同社出身の社員が多い土壌にも関わらず、ポケモン「金・銀」をプレイしている僕は「ゲームオタク」「変わり者」扱いで、社内に同志は数人いるかといったところでした。

 高校生のポケモントレーナーは「まだゲームをやってる奴」と当時は言われていました。
 また、アニメは1998年から放映をスタートしており、「子供受けアニメ」を見る世代は、ゲームをやらないまでもポケモンと日常的に触れ合っていました。
 つまり、「ポケモンアニメスタート」「ポケモン金・銀発売」時に、ゲームやアニメがコミュニケーションツールとなっていた小中学生が、「ポケモン世代」ということになります。
 ちなみに、ポケモンは「赤・緑」が初代なわけなのですが、こちらは販売時は23万本と振るわず、アニメやマンガのメディアミックスで翌年からヒット作となったスロースターターなゲームタイトルです。

 次に注目すべきは50代です。50代は継続率56%と高い数値を叩き出しているのですが、これは一体なぜでしょうか。
 それは、50代がポケモン黄金世代の親世代に当たるからです。「隠れ黄金期世代」といっても良いでしょう。
 毎日「ポケモン言えるかな」を言っていた子供の親の世代にとってもまた、ポケモンというキャラクターは非常に馴染みやすいわけです。

◆ポケモンGO中高年に何故うける。

 さて、50代にポケモンGOが受ける理由は彼ら彼女らが「隠れ黄金期世代」というだけではありません。ポケモンGOの課金構造も中高年層にフィットする内容になっています。 
 ポケモンGOはいわゆる「ガチャ」であったり、ゲームプレイの為の体力(以下スタミナ)回復等の課金モデルを打ち出していません。 主たる課金項目は

 ・バッグアップグレード
 ・ポケモンボックスアップグレード
 ・ルアー
 ・しあわせタマゴ
 ・ふかそうち

 です。
 まず、バッグアップグレードです、これはアイテムを保存しておける最大数を拡張出来る課金アイテムで、初期値は350個です。
 普通にプレイしている分には暫くの間350個で十分間に合うのですが、プレイを進めるうちに段々と手狭になってきて、課金をしたくなります。
 この課金は1度すればずっと効果があり、ゲームをプレイする上での「設備投資」的な扱いになります。

 次にポケモンボックスアップグレードです。これは捕まえたポケモンを保存しておく枠を拡張できる課金アイテムで、ある程度ポケモンを集め始めると、アイテム同様手狭になってきます。
 私はあえて進化させてないものを除けば、第一世代のポケモンはラプラス以外は揃っている状態ですが、プレイ2週間目に900まで拡張してます。
 こちらもバッグアップグレード同様1度課金をすれば永久に効果があります。
 普通のプレイをしている場合には 800~900くらい、「巣」に頻繁に出入りする人は上限値である1000までの拡張がマストとなるでしょう。この場合には3000ポケコインが必要となります。
 このポケコインというのはポケモンGOでアイテムを買うための通貨で、まとめ買いをすると100ポケコインが約80円ですので、この最大拡張はおおよそ2400円の投資が必要ということになります。

 これらの共通する特徴は、ゲームプレイの際に課金を強制されるわけではなく、「快適にプレイするため」に自ら望んで課金をするモデルになっている点です。
 ゲームプレイのための「スタミナ」がないとゲームができなくなり、そのために課金する。
 強いキャラクターを入手するためには他に手段がないから課金する。
 といった課金モデルはポケモンには採用しておらず、そのまま無料でもプレイ出来るが、より快適にプレイをするために「設備投資」をする。
 こういったモデルはいわゆる「ソシャゲ的なガチャ課金」に馴染みのない中高年層にも、すんなり受け入れられました。

◆シンプルでわかりやすいルール

 中高年層にウケる理由のとしては、「ゲームのルールがシンプル」という点があげれます。
 基本の「ポケモンGO」の仕組みは非常にシンプルです。

 1,ポケモンが地図上に現れる
 2,タップするとゲット画面
 3,ボールを投げると判定が入り成功すると捕まえられる。

 と、これだけ。
 プレイヤー同士がバトルをする「ジム戦」といった要素もあるのですが、別に「ジム戦」をしなかった所で特にゲームプレイに支障をきたすことはありません。ボールを投げて、ポケモンを捕まえて、図鑑を埋める。基本これだけのシンプルな作りです。
 僕が管理しているポケモンGOの交流用SNSグループには6000人弱のトレーナーがいますが、こちらには何人かのご高齢のプレヤーもいらっしゃいます。
 「アメ」というアイテムの仕組みにまだ接しないまま、数ヶ月プレイを楽しんでいるかたもいます。
 こういった、シンプルでプレイスタイルを矯正しないゲームのふわっとした感じも、中高年に受け入れられやすい理由の一つだと僕は思います。

◆「グッズ」展開も中高年層にフィット

 ポケモンGO PLUSという「ポケモンGO」と連動するガジェット(グッズ)を皆さんはご存じでしょうか。
 バイブでポケモンの出現を通知し、ボタン一つでゲットする機能が中心のガジェットなのですが、このガジェットがあると、「ポケモンGO」を立ち上げていなくても歩いた距離がカウントされるので、「ポケモンGO」が最強の万歩計になります。もちろん歩きスマホの防止にもなります。

 中高年層は非常に「健康」にうるさいものです。そして「健康のため」ならば出費を惜しみません。
 歩けば歩くほどゲーム上で得をする。そして、痩せる。これは、中高年の「ポケモンGO」のプレイに対してモチベーションを高めるに十分な理由となります。

 また、レアなポケモンが登場する「ポケモンの巣」には常連同志のコミュニティがあり、今話題の意識高い系出会い風サービス「Tinder」が無くても、同じ趣味の新しい友人が作れる環境もあることも特筆すべきでしょう。
 「さっきの高CPのガーディ捕まえれました?」
 青い空の下こんな会話を自然に交わすことが出来るのも「ポケモンGO」の魅力でしょう。

 これから春に向かい、ますますポケモン日和に日本列島はなってきます。
 金銀世代のポケモンの実装がはじまり、まだまだ目が離せない「ポケモンGO」。まだの人はぜひこの機会に手にとっていただけると。