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上司に連れられて夫が風俗へ……なんて話、よく聞くかと思います。
「上司に言われたら仕方がないね……」と許せるかたもいらっしゃれば、「断ることが出来たでしょ!」と怒りを覚えるかたもいらっしゃるかと思います。


そこで今回は、夫の風俗通いが原因で離婚が可能かどうか解説していきたいと思います。

■ そもそも離婚はどう法律で定められている?
まず、離婚について整理しますが、相手方が合意してくれるのであれば、どんな場合であれ、離婚が出来ることになりますので、離婚できるかどうかを争う場合は、相手方が合意してくれない場合となります。
相手方が話し合いに合意してくれない場合、「次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる」として1号から5号までが民法770条1項に規定されており、これが離婚原因にあたります。
「配偶者に不貞な行為があったとき」(1号)や、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(5号)というものが、一般的には問題になることが多いです。
なお、ここでいう離婚原因というのは、“相手方が話し合いによる離婚に応じない場合に、裁判所に離婚を認める判決を書いてもらえるための条件”という意味なので、“離婚話が持ち上がった理由や経緯”というような意味ではありません。
離婚の訴えでは、“離婚原因があるとはいえ、夫婦間の修復可能性は本当になくなったといえるのか?”ということを諸般の事情から裁判官が修復可能性がなくなったかどうかを判断し、離婚を認める・認めない判決を下すことになります。


■ 「不貞な行為」とは?
それでは、民法770条1項にある「配偶者に不貞な行為があったとき」というのは、具体的にはどういうことなのでしょうか。
この点について、最高裁は、「配偶者のある者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」だと述べています(最高裁昭和48年11月15日判決)。
性交渉を行ったときはもちろんのこと、性交渉自体はなくてもそれに類似する行為を行ったのであれば、性的関係を結んだということになります。民法上は不貞行為の回数は問題とされていません。

■ 上司に連れられて、風俗に継続的に通っていた場合は?
上司から誘われたとはいえ継続的に通っていたわけですから、夫は、自分の自由な意思で、風俗嬢と性的関係を結んだということになるでしょう。
特に夫が自腹で風俗代を支払っていたのであれば、なおさらです。
したがって、「不貞な行為があったとき」に該当し、夫には離婚原因があるということになるでしょう。
もっとも、その場合でも、諸般の事情から裁判官が“まだ夫婦関係は修復可能だ”と考えた場合には裁判離婚が認められない可能性があります。

■1回だけ行った場合は?
民法上は、1回だけであろうが継続的であろうが「不貞な行為」にあたることに変わりはありません。
しかし、先ほど述べたように、離婚裁判の裁判官は、諸般の事情から修復可能性を検討することになります。
そして、風俗に連れていかれたのが1回だったということも、この諸般の事情の中で考慮されます。継続的であった場合と比べると、1回だけの場合には、離婚を認める判決が下される可能性は低くなるでしょう。


■ 上司の強制に逆らえなかった場合は?
風俗についてこなければ降格を仄めかされたなど上司から事実上の強制があり、夫はそれに逆らえず渋々ついていったということも、ありえなくはないでしょう。
この場合、夫が自由な意思に基づいて風俗嬢と性的関係を結んだとまでは言い切れず、したがってそもそも離婚原因にならないとも考えられます。
また、仮に離婚原因にあたるとしても、最終的に離婚を認める判決を下すかどうかにあたっては裁判官の裁量が働きます。その中で、上司の強制があったという点が考慮される可能性は十分あると思われます。

■ 遊んだ相手が男性だったら?
ちなみに、先ほど述べた最高裁判決では「配偶者以外の者」と表現されているだけですが、不貞行為の相手方は異性であることが前提です。夫が風俗で性的関係を結んだ相手が男性であった場合には、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(5号)の問題となります(見た目が女性のニューハーフであっても、です)。

この5号の離婚原因がある場合であっても、最終的には裁判官が“修復可能性”を判断するのは同様です。

*著者:弁護士 近藤美香(秋葉原よすが法律事務所。家事事件を専門的に取り扱い、500件以上の家事事件を取り扱った経験を持つ。JADP認定の夫婦カウンセラーの資格を保持している。)
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