取締役でもない執行役員の安永竜夫氏が32人を抜いて社長就任へ

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三井物産で驚きの社長人事がありました。現社長の飯島彰己氏の後任として、取締役でもない執行役員の安永竜夫氏が4月1日付で社長に就任すると発表されました。
なんと、32人を抜いての抜擢です。

「抜擢人事」というと、伝説となっているのは松下電器産業(現パナソニック)の「山下跳び」です。役員の末席にいた山下俊彦氏が、25人のごぼう抜きで、次期社長に就任して世間を驚かせました。最近では、ヤフーの現社長である宮坂学氏の社長就任が大きな話題を呼んだことが記憶に新しいところ。宮坂氏は、最年少の執行役員からの抜擢であり、しかも前社長の井上雅博氏を含む経営陣全員が入れ替わるというドラスティックな人事でした。

経営者にとって、次の社長を決めることは最も重要な意思決定であり、企業にとっても、命運を左右することです。

「抜擢人事」の陰には、思い切った改革を若い世代に託すという前経営者の意思があります。今回の三井物産の安永新社長が、どんな改革を行うのかが、注目されるところです。

「聖域」にまで踏み込んで改革できる可能性がある

大胆な「抜擢人事」のメリットとしては、やはり「思い切った改革ができる」ということです。前任者が着手できなかったような「聖域」にまで踏み込んで改革できる可能性があります。また、経営陣が若返ることによって、企業のスピード感がアップし、社内の活性化につながることもあるでしょう。

しかし、このメリットを生かすためには、社長をサポートする経営陣が、新社長と同じ感覚を持っていることが必要不可欠です。

いきなり社長になったからといって、自分以外の役員が自分より年配の古参ばかりであれば、新社長も実力を思い切って発揮することはできません。

抜擢された新社長への「嫉妬」が懸念される

逆に、最大の懸念事項は、新任社長が実力不足であることが多いこと。社長に近い立場で経営に携わった経験がない中で、混乱してしまうケースも多々見受けられます。私の経験上、いきなりトップになった新社長が最も苦労するのは、財務関係です。営業畑や技術畑でやってきた人も、社長になれば財務がわからなければ務まりません。また、社内を動かすだけの社内人脈を持っていないと、いくら改革を叫んでも誰もついてこないという事態にも陥ります。

もう一つ、抜擢された新社長への「嫉妬」が懸念されます。飛び越えられた人の中には新社長を快く思っていない人もいて、あからさまに足を引っ張るケースもあります。こうなると、改革を期待されてトップに立っても、本来やるべきことができずに、妨害に対処することに意識が向いてしまいます。

このような「抜擢人事」のデメリットを抑えるために、新社長がやりやすいような経営陣や社内体制を準備してあげることも、抜擢する側の役割であると思います。

(福留 幸輔/組織・人事コンサルタント)