HEMSという言葉を見聞きしたことのある人は多いかもしれないが、「一時期に比べて目にしなくなった」と感じている人も少なくないのでは? HEMSとは何か。最近、あまり注目されなくなっているのはなぜなのか。


国の目標は2030年に全世帯をHEMS化

HEMSとは、Home Energy Management System(ホームエネルギーマネジメントシステム)の略で、「ヘムス」と呼ばれている。エアコンや照明、家電などを有線や無線でつなぎ、使用している電力をモニターなどで「見える化」するシステムのことだ。モニターやスマホなどからエアコンや照明などの電気機器の電源をON・OFFしたり、エアコンの設定温度を変えたりといった制御も可能になる。

住宅にHEMSを導入すると、節電効果が期待できる。家で使っている電力がリアルタイムで見えるようになれば、無駄な照明を落としたり、電気を使い過ぎないよう気を付けたりしたくなるからだ。HEMSには太陽光発電や蓄電池もつなげられるので、エネルギーをつくったり貯めたりすることで、さらに省エネ効果が高まるだろう。

事は家庭内の節電だけにとどまらず、地球全体の温暖化対策にもおよぶ。日本はCO2など温暖化ガスの排出量を2030年に2013年比で26%削減する目標を掲げているが、達成するには家庭部門で約40%も削減しなければならない。そこで国では2030年までに全世帯(5000万世帯)にHEMSを普及させる目標を打ち出しているのだ。

大規模なCEMSやAEMSのカギを握るスマートメーター

HEMSが注目され始めた背景には、東日本大震災で首都圏などの電力供給が不安定になり、計画停電を余儀なくされた経験もある。HEMSを導入した住宅をネットでつなげれば、太陽光発電で余った電力を足りないところに融通するなど、地域ごとで大規模にまとめてエネルギーを制御することが可能だ。それにより電力供給を安定化させたり、大幅な省エネを実現できると考えられている。

こうした地域ごとエネルギーを制御するシステムをCEMS(Community Energy Management System、セムス)やAEMS(Area Energy Management System、エムスまたはエイムス)などと呼ぶ。そのカギを握るのが、各家庭に設置されるスマートメーターだ。

スマートメーターとは家庭の電力消費量を自動で検針できるようにする、ネットにつながったメーターのこと。HEMSとスマートメーターをセットにすることで、CEMSやAEMSが実現するというわけ。現在、地域の電力会社が各家庭のメーターをスマートメーターに取り換える作業を進めており、2024年にはほぼすべての世帯に設置される見通しとなっている。

ZEHの普及で注文住宅はHEMS化が前進

さてそれではHEMSは普及しているのだろうか。

経産省によると2013年時点の普及率はわずか0.2%だったそうだが、その後は一戸建ての注文住宅を中心に導入が進んでいるようだ。

というのも、国がZEH(ゼッチ)の普及に力を入れているからだ。ZEHとはネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略で、太陽光発電などでつくるエネルギーが消費するエネルギーを上回り、差し引きゼロ以下になる住宅のこと。2020年までに新築戸建住宅の半数以上をZEHにする目標を掲げ、補助金などで推進しているところだ。ZEHを建てるのにHEMSは必須条件ではないが、導入するケースが多いという。

国の意向を受け、大手住宅メーカーを中心にHEMS付きのZEHを手掛けるケースが増えている。

だが、中小の工務店まではなかなか浸透していないのが現状だ。コストが優先される建売住宅でも、HEMSやZEHを導入する物件は多くはない。

物件価格の高騰でマンションのMEMS化にブレーキ

マンションはどうかというと、そもそもZEHの対象にはなっていない。というのも、マンションは屋上の面積が限られるので、全戸分の太陽光パネルを搭載するのが難しく、エネルギー消費をゼロにするのが困難だからだ。

それでもHEMSについては東日本大震災以降、首都圏などで導入する分譲マンションが登場してきた。マンションの各住戸にHEMSを設置し、スマートメーターを通じてネット化。

太陽光発電を付けた共用部分の電力とともに、マンション全体のエネルギーを管理するシステムだ。こうしたシステムをMEMS(Mansion Energy Management System、メムス)と呼ぶ。

MEMSが登場してきたのは、経産省が2013年度からスマートマンション導入加速化推進事業として、デベロッパーへの補助金を交付し始めたためだ。併せてスマートマンション認定制度を立ち上げ、MEMSを導入するマンションがロゴマークを付けられるようにした。同年度末には全国で941棟、約10万8000戸の補助金交付申請があるなど盛り上がりを見せた。

だが、補助金事業が2015年度で打ち切られたこともあり、最近はMEMSを導入するマンションが伸び悩んでいる。

認定制度は民間のスマートマンション推進協議会に引き継がれたが、2015年8月からの1年間で認定されたマンションは12件。その多くは中部圏や地方の物件だ。特に物件価格が高騰している首都圏では、コストがかかるMEMSの導入を見合わせるケースが多くなっているようだ。

消費者の関心が盛り上がらないのが最大のネック?

一戸建て・マンションとも普及には課題の残るHEMSやMEMSだが、最大のネックは消費者の関心が今一つ高まらないことだという説もある。せっかく自宅にHEMSを導入しても、モニターをチェックして節電に励むのは最初のうちだけで、やがて宝の持ち腐れになってしまうケースも少なくないとか。

だが、HEMSを開発するメーカーでは機器の改善を進めている。最近はAIやIoTの技術を応用し、居住者がチェックしなくても自動で機器を制御できるシステムも登場しているのだ。

「現状では各メーカーが自社製品のみを対象としているケースが大半ですが、HEMSにおける公知な標準インターフェース(同じ“ことば”)として規格を統一し、他社の製品もつなげられるようにする動きも出ています。HEMSで機器をコントロールする技術が進めば、普及が進むでしょう」(住宅生産団体連合会 住宅性能部長・里仁さん)

いずれスマートメーターが全世帯に設置され、機器のコストダウンが進めば、国がめざす「全世帯HEMS化」も遠からず実現するかもしれない。将来に備えて、これから家を買ったりリフォームするならHEMSの導入も検討しておくといいかも。

●取材協力
・住宅生産団体連合会 元画像url http://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2016/10/119885_main.jpg 住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル