サンタクロースといえば、そうそうお目にかかることのできない存在ですが、もしもクリスマスイブに日本の防空網がその姿をとらえてしまったら、どうなってしまうのでしょうか。

サンタさん、今年も米軍が追跡

 2016年もクリスマスを迎えようとしています。

いまごろサンタクロースは、世界中の子どもたちへプレゼントを持って訪れる準備で多忙を極めていることでしょう。

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世界中の子どもたちが待ちこがているであろうサンタクロースだが…(写真出典:photolibrary)。

 周知のとおり、サンタクロースはトナカイがひくソリに乗り、空を飛んでやってくるといわれています。北アメリカ航空宇宙防衛司令部、通称NORAD(ノーラッド)は、1955(昭和30)年以来、防空レーダーによるサンタクロースの追跡を行っており、現在サンタクロースがどこを飛行しているのかを子どもたちに向けて情報提供しています。

 今年で61回目を迎えるこのNORADの試みは、もともと子どもがNORADに間違い電話をしてしまったというハプニングから始まりましたが、いまではインターネット上で世界中にむけてサンタクロースの追跡情報が発信されています。日本語向けサイトも用意されているので、「ノーラッド」と検索すれば、誰でも容易に楽しむことができます。

 では、実際に日本の領空へサンタクロース(不明機)が接近しつつある場合、どうなってしまうのでしょうか。

サンタさん識別、そのとき戦闘機パイロットは…?

 航空自衛隊は、各地に設けられた地上レーダーサイト28か所とE-2C「ホークアイ」ならびにE-767AWACS(空中警戒管制機)によって、領空とその周辺空域を監視しています。不明機があらかじめ設けられた防空識別圏を超えて領空に接近しつつある場合、各地の戦闘機基地において「アラート待機」中の戦闘機を緊急発進(スクランブル)させ、目視確認可能な距離にまで接近した上で、対象を識別したり注意を与えるという「対領空侵犯措置」を行っています。

 対領空侵犯措置の対象となった不明機がサンタクロースであった場合、どうするのでしょうか。元航空自衛隊の戦闘機パイロットは「サンタさんに対してスクランブルした場合においても、所定の規則どおりの対応を行うことになるでしょう」といいます。

「パイロットは自分の見たものを識別して、淡々と『サンタさんに見える』と地上に報告することになります。

そののちにどうするかは、地上の偉い人たちの考え次第になるかと思います」

 ただし、「そもそもサンタさんがやってくる時間帯は暗いはずですから、そうむやみに接近しないと思います」とのことです。

サンタさん、現行戦闘機では太刀打ちできない?

 対領空侵犯措置は、通常の手順であれば目視確認した不明機に対し、まず国際緊急周波数における無線通信で日本の領空に接近しつつある旨を英語と中国語、ロシア語で「注意」を与えます。実際に領空侵犯となった場合は領空外へ退去、ないし強制着陸するよう命じる「警告」を実施、警告は無線通信だけではなく、機関砲を前方に向けて発砲する「信号射撃」を行う場合もあります。

 スクランブルする自衛隊戦闘機には、レーダー誘導ミサイルならびに赤外線誘導ミサイルの実弾を搭載しますが、自衛隊法によって「正当防衛」と「緊急避難」を除き攻撃を加えることはできません。サンタクロースが自衛隊戦闘機に危害を与えるとは考えられませんから、ソリが撃墜されて子供たちがプレゼントをもらえなくなってしまうというような悲劇にいたることは、まずありえないでしょう。

 ただサンタクロースはひと晩で世界中を回らなくてはなりませんから、戦闘機よりもはるかに速いスピードで飛んでいるはずですし、そもそも金属部がほとんどなさそうなソリはステルス性が非常に高いと推測されます。

よって、戦闘機の射撃管制レーダーでは機関砲やミサイルの照準を行うことすら困難かもしれません。

 サンタクロースと戦闘機の編隊飛行という夢のコラボ実現は難しいかもしれませんが、一方でサンタクロースがどの国の領空を侵犯したとしても、撃墜される心配はなさそうです。

【写真】アフターバーナーを炊く空自F-15

不明機はサンタ、どう対処? 「対領空侵犯措置」の観点から見る日本の聖夜

聖夜も、いまこの瞬間も、航空自衛隊の監視の目は日本の空を見つめ続けている(写真出典:航空自衛隊)。