このページをご覧の皆さんは、マンション管理組合の役員、いわゆる理事を経験されたことはあるだろうか? 筆者はマンション住まい歴2年だが、理事になったことはまだない。そして、できればなりたくない。

なぜなら「大変そう」だから。
そんな無責任極まる筆者だが、この度「理事交流会」なるイベント取材のお声が掛かった。いずれは順番がまわってくるであろう理事の仕事やその意義について、改めて考えるきっかけになるかもしれない。開催場所のマンション「ブラウシア(千葉県千葉市)」を訪ねた。

マンションの「理事」って、なぜ必要なの?

そもそもマンションの理事とは何か。分譲マンションの区分所有者、つまりマンションを購入した人は否応なく固有の組織「管理組合」に所属しなければいけない。

管理組合では、共用部の使用や修理、ルールなどについて話し合うが、都度住民全員を招集するのは難しいため、組合員の代表者である理事が意見・要望を取りまとめている。

理事は住民が持ちまわりで務めるのが一般的だが、なかには渋々引き受けている人もいるのではないだろか。実際、筆者が住むマンションでも「理事のなり手不足」が問題になり、輪番制で義務化にするかどうかの議論がはじまった。それだけはご勘弁を……と尻込みしている状況を知ってか知らずか、編集部から「千葉みなとにあるブラウシアというマンションで、理事たちの交流会があるので取材に行ってもらいたい」と声が掛かった。

前段が長くなってしまったが、聞けばマンション管理界隈でブラウシアは、“リーディングマンション”として名が知れているそう。今回は、首都圏にある18のマンション管理組合の理事たちがブラウシアに足を運び、交流を図る試みなのだとか。

まるで会社!? な管理組合を組織しているブラウシア

千葉みなと駅からほど近くにある「ブラウシア」は、2005年に完成した438戸のマンションだ。当初は、多くのマンションに共通するように、管理は管理会社にお任せだったそう。しかし、2011年の東日本大震災を機に、管理会社だけに頼るのではなくマンション住民が主導していくことの重要性を実感。2013年には、管理運営を管轄するグループと、自治会運営をするグループとで理事を分け、各理事の役割を明確化するなど、管理体制の改革に乗り出す。

さらに、「ブラウシア管理組合は強固なコミュニティをベースとし、終の棲家として充実したマンションライフを実現する」とした理念を掲げ、その実現に向けた行動指針・活動方針を打ち立てた。さながら、会社組織のようだ。

その領域は管理に留まらず、新規入居者向けのオリエンテーションを実施したり、独自にホームページを開設したりと、ほかに類をみないほど活動的な組合運営に挑戦している。

今回の交流会では、最初にブラウシアの“レジェンド理事”のお一人、高田豪氏によって、マンション管理組合が掲げる理念やこれまでの取り組みが紹介された。詳しくは「マンション管理、住民主導でここまでやっちゃう!?」の記事もあわせてご覧いただきたい。

【画像1】元副理事長として辣腕(らつわん)を振るった高田豪氏。現役バリバリのビジネスパーソンとあってプレゼンも圧巻だった……。高田氏いわく「管理会社の担当者は、みなさん出世して卒業していくんですよ」というから相当鍛えられるのだろう(写真撮影/末吉陽子)

そのほかにも、現在進行形で進められている大規模修繕工事をどう取りまとめたか、などなどブラウシアの理事たちによるプレゼンが続き、その後、マンション内部の見学が行われた。

ブラウシア住民の間でも好評だという「シェアサイクル」に興味を示していたのが、埼玉県からきた理事のお二人。

「われわれが住んでいる地域は坂が多く、ほとんどの方が電動自転車を使うのですが、二段式の駐輪場だと重くて上に乗せられないんです。だから、上はガラガラで下が待ち状態になっています。ブラウシアのように自転車の数を絞って住人間でシェアできるようにすれば、うちの駐輪場問題も少しは解消できるかなと」

【画像2】シェアサイクルについて理事たちから質問が飛び交った。駐輪場問題は住民の生活利便性に直結する問題だ(写真撮影/末吉陽子)

このほかにも、“リーディングマンション”の知見やノウハウを自らのマンションに取り入れるべく、多くの理事が参加していた。何人かに話を聞いてみよう。

まずは、昨年10月に完成したマンションの初代理事長を務めているSさん。

【画像3】築半年、総戸数600戸就任半年未満の新米理事長Sさん。理事会はまだ4回しか開催したことがないそう(写真撮影/末吉陽子)

―― 参加されたのは、マンションを良くしたいという思いからですか?

「そうですね。立候補したらたまたま当たっちゃたんですが、発足したての管理組合とあって課題が山積みで……。理事全員がちゃんと活動するような組織づくりとか、管理費の削減とか、そういうところから手をつけないといけない。ただ現状は、“こういう風にしたい”と提案する理事がいないのが課題かなと思っています」

―― 今日の交流会で印象に残っているお話はありますか?

「コンサルタントとして第三者に入ってもらう方法もあるんだなと。

理事といっても建物のことに関しては素人なので、例えば長期修繕計画ひとつとっても管理会社が言ったことをそのまま鵜呑みにせざるを得ないと思うんです。それが適正なのか、きちんと判断できる人にチェックしてもらえたら心強いですね。管理会社に何もかもおまかせだと適正な金額かどうか本当のところ判断できないまま、将来的に出費がかさんでしまうことだってあるかもしれませんからね」

【画像4】マンション管理の雑誌を片手に、理事たちの意見を積極的に求めるSさん。その熱意、頭が下がります……(写真撮影/末吉陽子)

また、理事ではなく“植栽担当委員”の方も参加していた。

【画像5】築年数30年超え、約400戸のマンションに暮らすMさん(写真撮影/末吉陽子)

―― なぜ参加しようと思われたんですか?

「やはり、どうやったら住民とともに植栽を運営していけるのかっていう事を知りたいなと」

―― 印象的なお話はありましたか?

「ブラウシアさんは、植栽管理ひとつとっても住民を巻き込んで取り組まれている。それは非常に参考になりました。なかなか難しいですが、私としても挑戦してみたいなと。紙でお知らせを出したり、説明会をしたりといったことはやってこなかったので、まずはそこからですね」

交流会企画の発端は「一人で頑張る理事を応援したい!」

今回の理事交流会を企画したのは、都市緑化と外断熱事業を手掛ける東邦レオの吉田啓助氏。これまでも、同社が植栽管理を請け負っているマンションの理事たちに声を掛け、セミナーや交流会を実施。その活動は5年目になるというが、一つの先進的なマンションに訪問して、見学を兼ねた交流会を行うのは初めてとのこと。

「理事さんのなかには、周囲の協力を思うように得られず、孤軍奮闘で頑張っている方も結構いらっしゃるんです。管理組合の運営方法は、あまり一般化されていないので、マンション同士、横のつながりから知識を得ていただくことが大切なんじゃないかなと。この理事交流会で一番大事にしているのは、何を話してもいいので、とにかく理事さん同士が話し合ってもらいたいと思っています。今回は、“住民経営マンション”として有名なブラウシアさんに場所をご提供いただき、実際にどのようにマンション管理を運営しているのかを学んでいただきたいと思い、このような会を設けさせていただきました」(吉田氏)

別マンションのため“しがらみがない”理事同士をつなげることで、管理組合の運営方法について学ぶことができる。吉田さんは主催者として、管理組合を遠巻きにサポートしたいと考えているようだ。

それにしても、寒風吹き荒れる2月の土曜日に、千葉まで足を運ぶ理事の熱意には驚かされるが……。

「最近はコミュニティづくりのために、こうしたイベントに興味をもたれる方が増えている印象です。理事の方が一番興味・関心をもたれるのは、マンションを持続的に管理していくうえでの資金について。修繕積立金の枯渇を心配されて、大規模修繕費用や管理費を何とか値下げできないものか、いろいろ調べられているケースが多いですね。今まではマンションって手間をかけずに、管理会社にある程度お任せして暮らすのが当たり前でしたが、『それだとお金がまわらなくなるぞ』というのが分かってきて、行動に移す方が多いなという印象です。一人でやろうとするとすごく勇気もいりますし、大変なので、こうした交流会で仲間を見つけて、『こんなやり方があるんだ』と思ってもらえるのが良いんです」

【画像6】「交流会の実施によって、頑張っている理事たちの助けになれたら」と東邦レオの吉田さん(一番右)(写真撮影/末吉陽子)

筆者自身、今回参加してみて最も印象的だったのは、ブラウシア管理組合メンバーの「雰囲気の良さ」。嫌々やっているような理事は一人も見当たらず、何よりみなさん仲が良い。正直うらやましかった。
そんな感想をブラウシア管理組合・元副理事長の高田さんにぶつけてみると、「それは、巡り合わせもあると思いますよ」とのこと。

「うちの管理組合は東日本大震災後の直後に立ち上がりました。地域コミュニティの在り方が見直されているタイミングでもあったし、たまたま熱意のある人が複数いた。だから、最初からある程度うまくいったんじゃないでしょうか。震災とか破損とか、大きな問題が発生したときに一人じゃ何もできないってことを、住人の多くが肌で感じているんだと思います。
ちなみに、筆者さんはお隣さんと仲いいですか?」

――いや、まったく仲良くありません。顔もよく知りません……。

「でしょ? うちもね、最初はそうだったんですよ。回覧板もなかったんで、ちょっとご挨拶する程度。でも、たまたまお隣さんと一緒のタイミングで理事になって、今じゃお酒飲みに行く仲ですよね。本当に理事会さまさまですよ」

【画像7】「妻からブラウシアの人たちの雰囲気がいいって聞いたので引越してきました」と語る住人の守屋さん。ブラウシアから徒歩約1分のマンションを売って移ってきたそう。本場アメリカのバーベキューマイスターの資格をもっていることから、マンションのイベント時にはバーベキュー番長として大活躍(写真撮影/末吉陽子)

今回の交流会に参加するまでは、管理組合の理事会組織に対して“惰性” “馴れ合い” “妥協”といったネガティブな印象を抱いていた。しかし、ブラウシアのそれはまるで正反対。高田さんにいたっては、自らを“ブラウシア人”と呼ぶほどである。こんなにもマンションに愛着をもてるのは、住民がマンションの質向上のために立ち上がり、腹を割って付き合い、受け入れながら、最高の暮らしのために努力しているからなのだ。

また、この記事を読んで住民主導のマンション管理に関心を持った人は、ぜひ「住民経営マンション」の特集も覗いてみてほしい。理事会の意識一つでマンションの価値がどれほど変わるのか、数々の事例から実感していただけるはずだ。

では、筆者は理事に立候補するのか……というと正直まだ及び腰だ。自分一人がやる気を見せたところで、何かが変わるとは思えない。かといって、管理組合全体を巻き込んでいくには、相当なパワーが必要だろう。

しかし、自分が暮らすマンションを良くしたい思いはある。だからこそ、こうした理事たちの交流会を開催し、どのような人たちが、どのように管理組合を運営しているのかを知ることが必要だと感じた。とはいえ、他マンションの理事とつながる機会は、ほぼない。そこで、管理や運営に携わる会社が、積極的に交流会を設けてくれるのは、非常に意義深いことではないだろうか。

●取材協力
・ブラウシア
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