関東およびその近郊で、住民の新幹線などによる通勤費を補助する自治体が増えています。移住や定住の促進、若者の流出防止など、事情はそれぞれ異なるようです。

100km以上の遠距離通勤に追い風も

 新幹線や特急を使った遠距離通勤に補助金を出す自治体が、関東およびその近郊で増えています。たとえば、東京から100km圏内の埼玉県熊谷市や茨城県石岡市、千葉県いすみ市のほか、100km以上離れた長野県佐久市や小諸市、新潟県湯沢町、栃木県那須塩原市などでも導入されています。

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オール2階建ての「MAX」ことE4系新幹線電車。1997年、新幹線による通勤需要の高まりを背景に登場した(画像:写真AC)。

 100km以上もの遠距離通勤は、あまり現実的でないと思う人もいるかもしれません。実際、国も通勤費が非課税となる限度額を定めているなど、一定の基準を設けていますが、2016年の税制改正において、その額は月10万円から15万円に引き上げられました。

総務省によると、「従来はおおむね100㎞程度の新幹線通勤を念頭に設定されていたものが、実態を踏まえおおむね200km程度の新幹線通勤がカバーされた」といいます。地方に移住したい、あるいは住み続けたいという人にとって有利になったといえるでしょう。

 そのような状況のなか、各自治体はどのような目的で、どのような補助制度を設けているのでしょうか。

長野県佐久市は「移住促進」のため

 佐久市の人口は約9万9400人(2017年4月1日現在)。市内にある北陸新幹線の佐久平駅から東京駅までの距離はおよそ164kmで、通勤定期券は1か月で13万2830円です。佐久市観光交流推進課に聞きました。

――佐久市の新幹線通勤費補助制度はどのようなもので、どのような目的があるのでしょうか?

 佐久市に移住され住宅を新築または購入される方を対象とした「佐久市移住促進住宅取得費等補助金」(移住促進サポートプラン補助金)の加算分、つまりオプションのような位置づけで、新幹線通勤定期券購入補助金を設けています。申請者とその世帯構成員を対象に、ひとりあたり年額最高30万円までで最長3年間、佐久平駅からの新幹線通勤定期券購入費のうち通勤手当でカバーされないぶんの半額を補助します。月額の上限は2万5000円です。

 現役の方が移住を考えるなかで、重要なことはやはり就業です。佐久市は佐久平駅から東京駅まで約75分と通勤圏内であることから、職を変えずに移住できるメリットを生かす狙いがあります。

――反響はいかがでしょうか?

 現役層の移住につながっており、現在も5名の方がこの補助金を利用されています。

このため、2017年度も補助要綱を改正したうえで、制度を継続しています。

月5万円まで補助する自治体も!

 移住者だけでなく、地元出身者を補助金の対象としている自治体もあります。

移住者にも定住者にも 新潟県湯沢町

 湯沢町の人口は約8100人(2017年8月末現在)。町内にある上越新幹線の越後湯沢駅から東京駅までの距離は約199kmで、通勤定期券は1か月で14万8870円です。

 湯沢町の通期費補助制度は、定期券購入費用から通勤手当を控除したぶんの半額を補助する点は前出の佐久市と同様ですが、その上限額はひと月あたり5万円、補助期間は最長10年間とされています。対象は、「湯沢町への移住促進のための住宅取得補助金」の要件を満たした世帯主および配偶者のほかに、湯沢町に通算15年以上居住していた、あるいは居住している30歳未満の人も含まれます。

同町企画政策課に聞きました。

――湯沢町の通勤費補助制度には、どのような目的があるのでしょうか?

 移住の促進と転出の防止、双方を目的に2016年8月から開始しました。移住された方、あるいはもともと湯沢町にお住まいの若い世代が、「町内に仕事がないから転出する」ということなく、町内から勤務先へ通っていただくことで定住を促します。

――補助の上限額や期間が、ほかの同様事例平均より手厚いように感じますが、どのような理由があるのでしょうか?

 制度設計で参考にしたほかの自治体と比べると手厚いでしょう。支出は大きいかもしれませんが、それによって得られる住民税や地方交付税のほうが、メリットが高いと計算しています。何より、10年という期間はほかに例がありません。

補助を2、3年で終えるよりも、10年くらい設定したほうが、転出のリスクを抑えられるからです。たとえば、町内へ移住されて補助金を利用される方については、35歳前後の子育て世代を想定していますので、10年のあいだに補助対象者がより高い役職に就けば、結果的に税収のアップにもつながります。

新幹線通勤、補助する自治体が増えているワケ 移住や定住促進 その先は…?

湯沢町による新幹線通勤補助金の概要(画像:湯沢町)。

これから導入する栃木県小山市、その目的は?

 東北新幹線の小山駅がある小山市は、人口が微増傾向にあるにもかかわらず、新幹線通勤費補助金の導入を予定しています。人口は約16万7400人(2017年9月1日現在)で、東京~小山間の距離は約81km、通勤定期券は1か月7万7310円です。同市工業振興課に話を聞きました。

――なぜ新幹線通勤費の補助金を導入するのでしょうか?

 大学などを卒業して働き始めた世代で市からの転出が多かったことから、その対策を目的としていました。ただ、移住してきた人へもこの制度を適用できるよう、対象を見直しています。

――具体的な内容はどのようなもので、いつからはじまるのでしょうか?

 市内在住の新卒者と、2017年4月以降に小山市へ転入された方に適用できるよう調整しています。東北新幹線の小山~上野間あるいは小山~東京間の通勤定期購入費について、通勤手当を控除した自己負担分をひと月あたり最大1万円、最長36か月間補助します。

※ ※ ※

 小山市工業振興課によると、「現時点でも10人程度から問い合わせをいただいています。早ければ2017年11月から導入できるよう準備を進めている」そうです。

3年で補助金終了 そのワケは?

 一方、東海道新幹線の小田原駅がある神奈川県小田原市では、過去に新幹線通勤の補助金を実施したものの、その後継続せずに終了しました。

 これについては市ウェブサイトの「よくある質問と回答」に、「平成17年度から、3年間の定住促進モデル事業として、新しく小田原市に転入し、新幹線で通勤している方に通勤費の一部を補助する新幹線新規通勤費補助金を実施してきました。この制度につきましては、事業予定期限が到来したため、新規の交付申請は、平成20年3月31日までに転入(小田原市住民基本台帳に登録)された方をもって終了しました」と記されています。小田原市企画政策課は、事業を継続しなかった理由を次のように話します。

「この事業には、定住を促進する目的と『新幹線で通えるまち』をPRする意図があり、当時は山手線の車内広告も打ち出して大々的に宣伝しました。実際に転入される方も多かったのですが、補助期間が終わると転居される方も多く、定住にはあまりつながらなかったのです」(小田原市企画政策課)

 市によると、現在は定住を促すというよりも、「まず小田原市を知ってもらい『交流』を促し、その先に『定住』を位置付けた施策へシフトしています」と話します。

 自治体による通勤費の補助は、多くの自治体で期限が最長3年程度に定められていますが、その先の定住が課題かもしれません。

【地図】佐久市、湯沢町、小山市などの位置

新幹線通勤、補助する自治体が増えているワケ 移住や定住促進 その先は…?

本記事中で言及した、新幹線や特急による通勤費の補助金が導入されている自治体(国土地理院の地図を加工)。