生命保険業界の一部でひそかに話題になっていることがある。それは、6月末で商品改定のために売り止めになったはずのAIG富士生命保険のがん保険「がんベスト・ゴールド」が、一部の販売代理店でのみ、継続販売されていることだ。

 このがん保険は、保険商品に詳しいファイナンシャルプランナーたちからの評価が極めて高い保険。というのも、がんと診断されると、最高で300万円もの診断一時金が支払われるからだ。

 がんに罹患すると、他の疾病に比べて働けなくなる期間が長期にわたったり、高額な治療を行ったりするなど多額の費用が掛かりがち。そのため、診断一時金の額が100万~200万円である他社に比べて、高額であるAIG富士の評価が高いというわけだ。

 だが、高額の診断一時金を支払うが故、AIG富士は「逆選択」に苦しめられていた。これは、モラルリスクの一種で、保険契約者ががんに罹患する可能性が高いことを知りながら、保険契約を行うというものだ。

 がん保険は契約してから90日間は、診断一時金などの給付金を支払わない仕組み。だが、90日を過ぎた途端、一気に請求が押し寄せる傾向が強い。それ故、高額の診断一時金を支払うAIG富士は「格好の的になっていた」と、ある保険数理の専門家は話す。

 そのため収支が大幅に狂い、「将来的に赤字に陥るリスクがあった」と同社幹部は明かすほどで、AIG富士はこのがん保険を6月末で売り止めにし、7月1日から改定版の「がんベスト・ゴールドα」に切り替えたのだ。

 結果、保険料が1.5~2倍に引き上げられ、これまで主契約に含まれていた上皮内新生物(転移しないため、がんである悪性新生物と区別される)は特約扱いとなった。それでも他社のがん保険より商品内容は優れているものの、事実上の“改悪”となった。

 当然ながら、改定前のがん保険を売っていた代理店は、7月からはスペックの落ちた改定後のがん保険を販売している。

一部の現場で大混乱

 ところが、冒頭の通り、一部の代理店のみ改定前のがん保険を9月末まで継続販売しているというのだ。それは、りそなホールディングス傘下のりそな銀行と埼玉りそな銀行、近畿大阪銀行である。

 理由は、「りそなグループは4月からAIG富士を取り扱い始めたばかり。6月末に改定すれば混乱するため、9月末までの継続販売を認めた」(前出の幹部)のだという。

 だが、こういった事態は「保険業法違反ではないが、普通はあり得ない」(金融庁幹部)ことであり、現場の混乱を招きかねない。

 事実、複数の代理店でがん保険を比較していた消費者から、「なぜ、りそなだけ改定前の商品を売っているのか?」とクレームがついている。事前に他の銀行や大手代理店には内々で報告していたとはいえ、末端の店舗にまで届くはずもない。一部の現場は混乱し、おわび行脚の日々。お粗末な結果となった。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 藤田章夫)