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中国嫁日記作者「フィギュアやめます。漫画のほうが儲かる」

2016年12月30日 16時00分 (2016年12月30日 16時33分 更新)

トークショーで語る井上純一氏

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 人気マンガ『中国嫁日記』作者の井上純一氏は、ひと回り以上年下の中国人妻・月(ゆえ)さんと夫婦仲良く順風満帆に暮らしているはずだった。ところが2015年秋、フィギュア部門をまかせていたビジネスパートナーによるトラブルが発覚、多額の法人税滞納、未払い、使途不明金のため井上氏は金策に追われた。その後、フィギュア部門も井上氏が取り仕切り、いくつか新商品も発売された。事業再建はうまくいっているように見えたのだが、中国を引き払い、来年にはフィギュア事業をたたむという。何が起きているのか、井上氏にきいた。

 * * *
──今回、取材申込をしたときメールアドレスが不達になって驚きました。ひょっとして会社が大変なことになってしまったのでしょうか?

井上純一(以下、井上):会社は大丈夫なんですが、ドメイン所有のお金を払っていなかったため使えなくなったんです。再取得しようとしたら、すでにドメインが外国のゲーム会社に買われていたので使えなくなり、メールアドレスも消えました。これも、元ビジネスパートナーだったK水が残していった問題のひとつです。

──昨年1月にお話をうかがったときは、法人税が滞納金ふくめて約1500万円になっていて、会社の預金がほとんどなくなり、自転車操業で日々の生活費はブログアフィリエイト収入でまかなっていたという話でした。その後、法人税は納められたのでしょうか?

井上:延滞金のぶんはまだですが、元金は払い終えました。これでやっと、税金に利子がつかない生活になりました。あの当時と比べると、生活はずっと楽になっています。

──会社の業績は上向いているといえるのでしょうか?

井上:失敗はしなかったことが、会社としては大きかったですね。会社にお金がないとわかって、借金や税金の滞納がわかってから手がけたフィギュアは、どれもこれも売上がすごくよい成績ではなかったけれど、逆にいえば悪くもなかった。そのなかで、もっとも売れ行きがよかったのは艦隊これくしょんの「那珂ちゃん」フィギュアでしたが、それも爆発的にうまくいったわけではありませんでした。

──業績好調とは言い難いのでしょうか?

井上:フィギュア業界は、いまどこもとても厳しい。その理由は何より、全体的に完成フィギュアという商品が売れなくなってきていることにあります。正直、うちのような小さいメーカーだと、もう、やっていく理由はありません。いま進行している企画が終わったら、もうフィギュア製造販売はやめます。僕は社員をかかえず、一人きりで描いているという事情もありますが、漫画のほうが儲かります。一年前には想像もしていなかった事態です。

──2014年から拠点にしていた広東省深センを引き上げ、日本に戻ってきたのはフィギュア部門をたたむことが理由なのでしょうか?

井上:いちばんの原因は家賃が急激に上がったことですが、仕事の都合もあります。

──とはいえ、井上さんが今年5月に予約販売した艦これの「那珂ちゃん」フィギュアは人気キャラクターです。予約好調に見えましたが、それでも厳しいのでしょうか?

井上: 正直なところ、那珂ちゃんはもっと売れると思っていたので、反応の鈍さに驚きました。それでも同業者からは「その価格でこれだけ売れれば大ヒットだ」といわれました。確かに一体1万7千円は高額な部類なのでしょうが、今やフィギュアは一体1万円超が当たり前です。でも、最近のフィギュアの売れ方をみていると、1万円を超えた途端に売れなくなります。だから、那珂ちゃんを買ってくれたお客さんは、本当に大決心してくれたんだと思います。

──オタク経済圏は数十億円の市場だと期待された時期もありましたが、そう楽観的でもなくなっているのでしょうか?

井上:お金に余裕がなくなっているからなのか、使うときはものすごく慎重です。今回の那珂ちゃんの場合、予約開始直後は反応が悪かったですね。予約終了時間が近づくにつれ、しり上がりによくなって持ち直しました。今は、人気キャラクターのフィギュアであっても、締め切り間際に買う人が多い。最後の最後まで悩んで、最後の最後で買うと決める。その様子をみて俺も買おうと決心する。この売れ方は、最近の傾向だと思います。

──とはいえ、オタク部屋といえばお気に入りキャラクターのフィギュアが飾るのが定番という印象ですが、フィギュアを飾らなくなっているのでしょうか?

井上:最近はキャラクター人気の入れ替わりがすごく激しいので、お客さんからみると、そのたびに1万円超するフィギュアは買っていられないという事情もあると思います。製造販売する側からみると、人気が出たキャラクターを開発しても、商品化できたころにはブームが終わっていることが多いため、割にあわない商売になってしまいました。

 ひとつのフィギュアを開発するのに半年以上かかります。でも、それではキャラクター人気の旬を逃してしまう。大手メーカーの場合、たとえばアニメ化するなどの事前情報をもとに、アニメ制作そのものに出資するなどして、世間には公表していないフィギュアを先行して開発するんです。資本力があるからできることですが、ヒットするかどうかは運次第です。

──大手といえども厳しいのでは、中小メーカーはどうやって生き残るのでしょう?

井上:うちのような小さいメーカーとしては、なるべくヒット作品を連発して開発費を回収して利益を出さないとならない。ところが、最近はヒットしても利幅が小さい。以前は、フィギュアの製造販売といえばハイリスクハイリターンな賭けで、一度あたるとしばらくやっていける利益が出ました。でも今は、ハイリスクローリターンな賭けになってしまいました。

──フィギュア業界が生き残る方法はあるのでしょうか?

井上:すごく小さいフィギュアを高額で売るなど、ありえない勝負が必要かもしれません。フィギュアといえば実物の6分の1が普通だったんですが、いまはひと回り小さい8分の1ぐらいが中心です。小さくなっているのは、最も高い金型ではなく樹脂やゴム型でつくれるからです。業界最大手は2頭身や3頭身の小さいフィギュアを主力商品にしています。スケールフィギュアといわれる通常のフィギュアは、収益が悪すぎて、もはやメインではないです。

──海外で売るという選択肢は活路にならないでしょうか?

井上:販路を持っていれば可能性はあります。でも、小さいメーカーは問屋が存在しない、または高額な中間マージンが発生するので難しい。フィギュア業界の場合、頑張っているところはあるし、他社と比べると儲かっているといえるところもあるかもしれないですが、その会社の前年度と比べると業績がよくないところが多いです。

──中国市場ではどうでしょうか?

井上:今は勝手にコピー製品がつくられている状態ですが、比較的、高級な偽物がつくられるようになってきたので、中国人の目も肥えてきているのを感じています。だから、中国人に向けてのフィギュアは可能かもしれません。少し安い価格で、日本と同じものを中国人のためにつくるんです。とはいえ、まだ欲しがる人数が少ないので、版権をとっての商売は偽物に圧迫されるので、かなり難しいと思います。

 大資本ならば、日本のスタッフで制作する中国向けアニメに出資し、偽物を作る暇がないタイミングでフィギュアを売る。その方法なら中国でもフィギュア販売が可能かもしれません。

──たまっていた法人税の元金をすべて支払ったとのことですが、次々とみつかった未払いも精算できたのでしょうか?

井上:あとは、僕を信用して「払わないはずがない」と1000万円もの未払いを黙って待ってくれていた工場へ対してだけです。それは、最後のアイテムで全部返します。最後に残った金型の売却が完了すれば、終わります。来年の夏ぐらいまでに、たぶん、何もかもすべて終わると思います。

──フィギュアの金型といえば、商品化できていない金型がたくさん資産に計上され固定資産税がかかっていたと昨年、お話されていましたね。

井上:その金型はひとつを除いて順次、廃棄しています。廃棄しましたという証明書を作成し、税金を生むだけで儲けに繋がらなかった固定資産は順調に減っています。ひとつだけ、他社、共同開発する金型があります。それは今後、K水問題最後のプロジェクトとして発表する予定です。面白いことになるだろうなと思っています。

●井上純一(いのうえじゅんいち)/1970年生まれ。宮崎県出身。漫画家、イラストレーター、ゲームデザイナー、株式会社銀十字社代表取締役社長。多摩美術大学中退。ひと回り以上年下の中国人妻・月(ゆえ)との日常を描いた人気ブログ『中国嫁日記』を書籍化しシリーズで累計80万部を超えるベストセラーに。2014年から広東省深セン在住だったが、2016年に日本に戻った。著書に『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(監修・矢澤真人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス)など。最新刊『中国嫁日記』6巻(KADOKAWA エンターブレイン)が発売中。

注: この記事は配信日から2週間以上経過した記事です。記事内容が現在の状況と異なる場合もありますのでご了承ください。

コメント 1

  • 出目猫 通報

    他人事ながらよかったニャ。

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