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日本株式の年初の見通しはなぜ強気になりやすいのか~背景にあるのは楽観的な業績見通し~

2017年1月11日 12時13分 (2017年1月12日 11時23分 更新)

日本株式の年初の見通しはなぜ強気になりやすいのか~背景にあるのは楽観的な業績見通し~(写真=Thinkstock/GettyImages) (ZUU online)

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■はじめに

2017年が始まりました。2016年の株式市場は大荒れでしたが、「申酉(さるとり)騒ぐ」の相場格言どおりに、酉年の今年も荒れる相場になるのでしょうか。株式市場関係者の新年の株価予想に耳を傾けると、「業績拡大で株価も上昇」という声が多いようです。しかし、ここ数年を振り返ってみると、年初に株式市場で堅調な展開が予想されていても、実際に蓋を開けてみると年初の想定どおりにいかない年も多くありました。

そこで本稿では、年初の想定通りにいく年がなぜ少ないのかをPER(Price Earnings Ratio:株価収益率)や企業業績から考えていきたいと思います。

■業績が正確に見通せれば株価はある程度、予想可能

PERは足元の株価が割安または割高であるかを考える上でよく用いられますが、株価を予想する際にも便利な指標です。そもそもPERは株価をEPS(Earnings Per Share:1株当り利益)で割った指標です。下式のようにPERとEPSが分かれば、株価を逆算することができます。

ここで、PERは一定の水準の間で推移する傾向があります。実際にアベノミクスが始まった2013年以降のPERの推移を見ると、概ね12倍から15倍に収まっていたことがわかります。

この4年で15倍を超えたのは2013年4、5月と2015年3~8月、そして足元の2016年12月のみです。過去2回ともバーナンキ・ショック、チャイナ・ショックを受けて株価が急落し、PERは再び15倍以下に低下しました。また、12倍を大きく下回ったのは2016年7月の英国のEU離脱が決定し、市場が混乱したときです。こちらも混乱が収まると株価が反発し、12倍を超える水準まで回復しました。

ここ4年間のPERの推移を踏まえると、2017年も投資家が過度に楽観的もしくは悲観的にならない限り、PERは12倍から15倍の間で動くことが想定されます。そのことから、もし新年度の業績を正確に見通すことが出来たならば、株価が動く範囲をある程度絞り込めます。TOPIXのEPSが105ポイントほど期待できるのであれば、TOPIXは1,260~1,575ポイントの間で推移する可能性が高いといえるでしょう。

■新年度の業績見通しは難しい?

そのため、株価を予想するにはPERの変動よりもEPSの動向をつかむこと、つまり新年度の業績が重要になると筆者は考えています。特に、前章で見てきたように昨年11月以降の株価上昇に伴いPERは切り上がってきており、高水準にあります。足元、PERの水準がさらに大きく切り上がることは期待しにくい状況です。今後、株価が上昇するかは企業業績にかかっているといえます。

しかし、年初に新年度の企業業績を正確に予想するのはきわめて困難で、証券会社などから発表される新年度の業績見通しは例年、楽観的な傾向があります。実際に証券会社などの予想を集計しているI/B/E/S予想と実績の乖離具合を見てみましょう。

TOPIXのEPSの新年度の予想と実績を比較すると、1989年度以降の28年間で予想より上方に着地した年は1989、2005、2013年度の3年だけでした。予想より下方に着地した年度の中で、予想から実績の乖離率が▲10%以内で収まった年度も5年でした。残りの年度は予想から大きく乖離、もしくは赤字に転落していました。

つまり過去3分の2以上の年が、年初に想定されていたよりも実際にはだいぶ低業績であったことが分かります。業績見通しが甘いと、株価の予想範囲もその分だけ高くなってしまいます。そのため、年初の株価予想が強気になっていたと解釈することができます。

では、なぜ年初の業績予想が楽観的だったのでしょうか。年初の予想は企業から出てくる情報が少なく、市場関係者の裁量が大きくなるため、予想が希望的観測になりやすくなると筆者は考えています。証券会社は市場が活況になることを心の中で願っており、年初の業績予想はポジティブな予想になりやすかったのではないでしょうか。ちなみに、過去一度も新年度の減益を予想した年はなく、常に業績拡大が市場関係者の間で予想されていたことからもそのことが伺えます。

2017年度は、足元のEPS予想が106ポイントと二桁増益を市場関係者は見込んでいます。しかし過去の傾向を踏まえると、市場予想は実際に企業が達成するにはハードルが高いことも考えられ、やや割り引いて見たほうが無難だといえるのではないでしょうか。ちなみに2016年度は、一年前は110ポイントを超える水準が予想されていましたが、足元の予想は90ポイント台と大きく下方修正されました。

■日米での違いは?

TOPIXを通じて日本の株式市場について考えてきましたが、年初の業績見通しが楽観的なのは日本だけなのでしょうか。そこで米国のS&P500指数についても見たいと思います。

S&P500指数のEPSについて新年の予想値と実績値を比較すると、1986年以降の31年間で予想より上方に着地した年は9年でした。S&P500指数でもTOPIXと同様に、年初は楽観的な業績見通しがされている傾向があるといえます。ただし、予想から実績の乖離率が▲10%以内で収まった年も含めると20年ありました。3年のうち2年くらいは概ね想定の範囲内で着地していたといえます。

日本のTOPIXでは逆に3年のうち2年は想定外に低業績であったことを踏まえると、米国のS&P500指数の方が予想の精度が高かったといえます。TOPIXとS&P500指数の予想と実績の乖離率の水準自体を比べてもそのことが伺えます。なお、決算期が日本は3月末の企業が多いのに対して米国は12月末と時期が異なります。ただし、TOPIXで使用した前年12月末時点の予想を、年度末の当年3月末時点での予想に変えても、結果自体は大きく変わりませんでした。

日本のTOPIXの予想精度が低かった要因の一つとして、業績変動の大きさの違い挙げられます。実績EPSの推移を見ると、TOPIXの方がS&P500指数と比べて業績の浮き沈みが激しかったことが分かります。これは日本の主要企業の業績は為替レートなどの外部環境に大きく依存するためだと考えられます。日米共に前年の水準を元に新年の業績予想が作成されますが、日本企業は特に刻々と変わる外部環境に左右され、前年の業績を元に予想すると外れることが多かったのではないでしょうか。

なお、この日米比較の結果を見ると日本より米国の方が、企業業績が安定していて投資魅力を感じた方が多いのではないでしょうか。ただし、日本から米国株式に投資する場合には、為替変動リスクを投資家自身が別途負うか、コストを払って為替ヘッジすることになるため注意が必要です。米国株式が(ドル建てで)上昇したとしても、同時に円高ドル安が進行すると円建てだと下落することもあります。逆に日本株式の場合、業績変動に為替変動リスクが内包されていると考えることもでき、EPSの拡大のみから投資魅力の優劣を判断することは避けたほうがよいでしょう。

■セクターの違いは?

TOPIXを通じて東証一部企業全体の傾向を見てきましたが、セクター別で見るとどようになっているでしょうか。海外投資家がよく用いるGICS(Global Industry Classification Standard:世界産業分類基準)のセクター別に見たいと思います。

1998年度から2015年度までの過去18年間だと、「電気通信」が半分以上の年で予想から上方に着地しており、予想に楽観的なバイアスが見られませんでした。また予想から▲10%以内で着地した回数を見ると、「ヘルスケア」や「公益事業」の年初の予想も比較的堅実であったといえます。

過去の予想のバイアスが小さかった3セクターは、共通して景気等に業績が左右されにくい、業績が安定している業種です。比較的、他のセクターと比べて業績がぶれないため、堅実な予想になっていた可能性があるかもしれません。ただし、「公益事業」については原発が問題となった2011年度以降の予想の精度が低下しています。

その一方で、「生活必需品」が予想より上方に着地した年も予想からの乖離率が▲10%以内に収まった年も、突出して少ない結果となりました。バイアスが小さかった3セクターと同様に、業績が安定している業種ですが、業績見通しが最も楽観的であったセクターといえるでしょう。「情報技術」、「一般消費財・サービス」などの景気や為替などの影響を受けやすいセクターについても、年初の想定内で着地した年度が少なかったようです。

■今後の市場予想には特に注意が必要

今後、5月ごろがターニングポイントとなる可能性があるため注意が必要です。ちょうど毎年、3月決算企業の通期業績見通しの公表される頃です。市場関係者の予想と実態との乖離を埋める助けになるのが企業から適時開示される情報です。その中でも、会社から公表される業績見通しが目先の業績を占う上では特に重要です。もし公表された会社予想と市場予想との乖離が大きいと、市場で膨らんでいた業績拡大期待が一気にしぼみ、それに伴い株価が大きく調整することも考えられます。

また2017年度は「フェア・ディスクロージャ・ルールの導入」と「決算短信の自由度向上」の影響によって、企業の情報開示が後退する可能性もあります。

「フェア・ディスクロージャ・ルール」は公平な情報開示を求める規制です。投資家間の情報格差による不公平を防ぐようにするためのものです。ルールの導入を見越して、月次売上高など以前は一部の市場関係者のみに公表していた情報の開示自体を、取りやめる企業が出てきているようです。

また、「決算短信の自由度向上」は2017年3月末日以降最初に終了する通期決算又は四半期決算から適応されます。具体的には東京証券取引所の上場企業に対して決算短信・四半期決算短信の既存様式の使用義務が撤廃されます。それに伴い、企業の決算短信が簡素化される懸念があります。

もし適切な情報開示が減ってしまうと、市場予想が今まで以上に期待先行で独り歩きすることや、市場予想が軌道修正されるのが遅くなってしまうことが考えられます。そのため、企業の情報開示の動向自体にも合わせて留意した方がよいといえるでしょう。

前山裕亮(まえやま ゆうすけ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部

コメント 2

  • ノラ猫さん 通報

    必死だな。そんなに株価を吊り上げたいのか?

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  • ノラ猫さん 通報

    [2017/01/11 20:12]:庶民の景況感は言うに及ばず、物価上昇率も思い通りにならず、株価上昇だけがアベノミクス成功!の唯一の根拠ですから。

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