「テレビはつまらない」という妄信を一刀両断! テレビウォッチャー・てれびのスキマが、今見るべき本当に面白いテレビ番組をご紹介。
ついにクライマックスを迎えるNHK大河ドラマ『平清盛』。
長編連続ドラマの魅力は「積み重ね」である。その積み重ねてきた人物造形や関係性が昇華した時や、逆に崩壊した瞬間のカタルシスが醍醐味だ。しかし、それが濃密であればあるほど、視聴者に集中力が要求される。だから、長編ドラマとは思えないような、誰も“成長”も“変化”もしないで同じことを繰り返す薄っぺらな作品が高視聴率を獲ってもてはやされたり、逆に濃密で骨太なドラマが最初の数回のつまずきで低視聴率に苦しむことがしばしばある。
確かに、開始当初の『平清盛』は汚くてうるさい作品だった。
『平清盛』の場合、最初からある意味でハンディキャップがあった。多くの日本人にとって、清盛をはじめとする平家は永遠のヒール(悪役)である。義経をはじめとする歴史上のヒーローは源氏。僕らは教科書などで、源氏視点から見る歴史を刷り込まれている。平家は「平家にあらずんば人にあらず」とガハハと驕り高ぶって、栄華を極め、贅沢三昧の生活や傲慢な政治をした挙げ句、自業自得で崩壊した。
大河ドラマの特性として、最初からネタバレ状態というものがある。大きな出来事や結末はみんな知っている。しかし、逆にそれを利用して、違った角度から史実を描き、自分たちの知っている歴史観を覆される快感こそ、大河ドラマの醍醐味の一つだ。
いよいよ平家が栄華を極め、同時にその崩壊の予兆が忍び寄る第3部前半。一貫して慣習や伝統を打ち破ろうと奮闘し続け、50歳を過ぎた清盛。
例えば、「殿下乗合事件」(第37話)はそんなパワーバランスの時に起きる。
時忠はそんな重盛の采配を見て言う。
「正しすぎることは、間違っていることと同じだ」
やがて、基房をはじめ平家に対して異を唱える者たちを、禿(かむろ)と呼ばれる武装した童子たちが襲い始める。それは、時忠が放ったものだった。重盛が冷酷になれない自分に嘆き病床に伏し、清盛の妻・時子(深田恭子)が「このままでは平家が嫌われ者になる」と心配するのをよそに清盛は権力の拡大に邁進し、それに呼応するように暴走を止められない時忠は、禿によって恐怖政治を強化していくのだった。
元海賊王で清盛の側近兎丸(加藤浩次)は、時忠に「やりすぎじゃねえか?」と忠告する。それに対して時忠は、厳しい表情で自らに言い聞かせるようにつぶやくのだ。「平家にあらずんば人にあらず……」と。
長きにわたって積み重ね描かれた人間味あふれる人物描写、複雑な人間模様と時代背景。『平清盛』は、それらを丁寧に紡いだ“正しすぎる”大河ドラマだ。だからこそ、驕り高ぶった言葉だと思っていたセリフが、実は一方で苦渋に満ちた言葉だったのではないかと気付く快感を味わえるのだ。
プロレスの世界ではヒール(悪役)がベビーフェイス(善玉)に転向することを「ベビーターン」という。ベビーターンは大きなカタルシスを伴うものだ。時代のヒールに貶められた平清盛は、大河ドラマとしても低視聴率というヒールの扱いを受けてしまっている。ドラマの中で清盛はベビーターンを果たしているが、『平清盛』は大河ドラマとしてもベビーターンができるのだろうか。あるいは、やはり「正しすぎることは、間違っていることと同じ」なのだろうか。
(文=てれびのスキマ <<a href="http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/"target="_blank">http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)
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