※イメージ画像:「ものまねクラブ Vanilla.」公式HPより

 JASRAC(日本音楽著作権協会)が13日、名古屋市中区のものまねショーパブ『バニラ』がショーの際に流すカラオケなどの楽曲利用料を支払っていないとして、利用料など約680万円と楽曲使用差し止めを求めて男性経営者を相手に訴訟を起こした。ものまねショーパブに支払いを求めたケースは全国初。

同時にカラオケ機器をリースしていた同市の事業者も提訴されている。

 飲食店などが音楽を流す場合は、協会と著作権の利用契約を結ぶ必要がある。『バニラ』ではカラオケに合わせてタレントがものまねを披露するスタイルだったが、これも利用契約を結ばなければいけなかったようだ。また、カラオケリース業者に関しては「リース先の利用許諾契約の有無を確認する注意義務を怠った」として提訴されており、JASRACが再三にわたってリース先に告知や催告をするよう業者側に求めたものの応じなかったという。

 近年、このようなJASRACによる“見せしめ訴訟”や突然の利用料請求が相次いでおり、その対象はクラブやダンス教室、フィットネスクラブ、ジャズ喫茶など多岐にわたる。契約していない店舗には一度に数百万円の請求がくるため「経営が成り立たない」と事業者側が悲鳴を上げているのも事実だ。

 04年に新潟の老舗ジャズ喫茶が演奏差し止めや著作権使用料の支払いなどを求められたケースでは、過去10年の不払い金550万円と5万円以上の月額契約料を要求された。座席数40席の店舗で月に5万円も著作権利用料で持っていかれたら経営が成り立たないだろう。結局、調停によって不払い金は280万円、月額契約料は約13000円に引き下げられたが、同規模の喫茶店のBGM使用料が年間6000円(月額500円)で開きがあり過ぎるとして、ジャズ喫茶側は「納得がいかない」と怒りをあらわにした。

 JASRACと契約する場合、基本的に店舗側は「包括契約」を結ぶことになる。これは店舗の面積や客席数などで利用料を算出し、契約すればJASRAC管理の楽曲は使い放題になるというものだ。1曲ごとに個々の著作権者に許可を得ることは難しいため、現実的なシステムであるといえる。

だが、どの曲が使われたのか全く把握せず、店の形態で徴収するというスタイルが混乱を招くこともある。大半の使用曲が使用料の必要ないクラシックやオリジナルだとしても、一部でも著作権のある楽曲を使えば一律の金額を支払わなければいけないからだ。

 この契約スタイルに疑問の声を上げてJASRACと今も闘っているのが、かつてロックバンド・爆風スランプで活躍し、現在はLOUDNESSの二井原実や筋肉少女帯の橘高文彦らが参加するバンド「X.Y.Z.→A」などで活動するドラマーのファンキー末吉だ。09年、ファンキー氏が経営に携わっている「Live Bar X.Y.Z.→A」にJASRACが著作権料を請求し、その書類の内容に彼は「これではヤクザのみかじめと同じである。ちゃんと著作権者に分配しろよ!!」と憤った。書類には「どの曲を使ったか」と記載する項目はなく「何平米の店舗で月に何時間演奏しているお店は月々いくら払いなさい」という表とその申告書があるだけだったというのだ。

 JASRACは、包括的利用許諾契約として特定のモニター店でサンプリングしたデータを元に、使用料を著作権者に還元していると主張している。だが、その具体的な内容は非公表。ファンキー氏は同店でBGMとして「X.Y.Z.→A」の楽曲を流し、ここ10年ほどで「X.Y.Z.→Aは300本ぐらいライブをしている」というが、それに関して著作権者として分配金を貰った記憶はないという。

 ファンキー氏は使用料の支払いを完全に拒絶しているわけではなく、JASRACに無暗にケンカを売っているわけでもない。だが、この不可解な徴収方法と分配の不透明さに不信感がぬぐえなかったファンキー氏は、支払う前にその“ブラックボックス”を明確化してほしいとJASRAC側と交渉した。だがJASRAC側は応じず、一昨年に申し立てられた調停も不成立。

昨年11月には、JASRACが「著作権侵害差止等請求事件」として演奏の差し止めや損害賠償を求める訴訟を起こし、ついに法廷闘争に突入した。

 この訴訟は個人のファンキー氏にとって非常に負担が重く、少なくとも一人あたり100万円といわれる弁護士費用や時間の捻出など、想像を絶する労力と金銭が必要になる。もし負ければ賠償金など600万円以上を支払うことになり、店も営業できなくなるだろう。勝ったとしても地裁判決後にJASRAC側が控訴するのは確実。高裁、最高裁と進んでいけば弁護士費用などは更にかさむことになる。

 ファンキー氏は「勝っても負けても私には1千万近い借金が残るだけの戦い」と語っているが、彼一人にJASRACとの闘いを背負わせるわけにはいかないとして、昨年12月に有志による裁判費用支援募金サイト「ファンキー末吉支援者の会」(http://www.simplepile.jp/)が開設された。

関心の高さのあらわれか、今年2月10日現在で420万円以上の支援金が集まっている。

 前述したように、JASRACの「包括契約」は現実に即した徴収方法であるといえるだろう。著作権を守ることが重要なのも当然だ。だが、その算出方法や分配の不透明さが問題視されているのも事実であり、JASRACの強硬な手段が音楽の間口を狭めることにもつながっている。音楽業界の市場規模が年々縮小している中、作り手や聴き手のために何ができるのか、JASRACには今一度考えてほしいものだ。
(文=佐藤勇馬/Yellow Tear Drops)