ハリウッドきっての大物カップルとして知られたブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリー・ピットが破局の危機を迎えている。9月19日(現地時間)に、アンジーが提出した書類によると、離婚の理由は「和解し難い相違」で、養子と実子あわせて6人の養育権を求めていると報じられた。



 時を同じくして日本では9月24日から、2人が10年ぶりに夫婦役で共演する映画『白い帽子の女』が公開。あらすじはこうだ。70年代、結婚14年目のアメリカ人小説家のローランド(ピット)と、ダンサーとして活躍していた妻ヴァネッサ(ジアンジー)は、南フランスの浜辺にあるリゾートホテルをバカンスで訪れる。過去のある出来事によってローランドを拒絶し続けるヴァネッサだが、朝から酒を飲む夫との溝は埋まることなく、別々の時間を過ごしていた。そんなある日、新婚の若いカップルがハネムーンで隣室に宿泊。輝かしい2人に好奇の眼差しを向けるヴァネッサは、隣室との間にある壁の穴から2人の様子を覗き続けるのだが――。


 2014年夏にブラッド・ピットとハネムーンでマルタ島を訪れた際に、アンジーが監督と脚本、製作を務めて撮影した作品。2人の結婚生活をそっと見ているかのような感覚になる内容だ。

 9月14日の特別試写会では、著述家の湯山玲子氏によるトークショーが開催された。湯山氏ならではの切り口で、映画のこと、アンジェリーナ・ジョリー・ピットそしてブラッド・ピット、という俳について語られたトークショーのハイライトを紹介したい。

MC 湯山さんは映画をご覧になって、「アンジーはすごい女優だなと改めて思った」とおっしゃっていました。その理由は、自分のことをちゃんとブサイクに見えるように撮っているからだそうですね。


湯山玲子氏(以下、湯山) そう、アンジーがちゃんとブスに見えるからね。そこがすごく重要で、 この映画の売りは“ブランジェリーナ”というカップルじゃないですか。それが一番の宣伝文句なんですが、その2人が新婚旅行で撮った作品となると「あららこれはちょっと痛いぞ」となりそうなところですよね。ほら、人間ってお金持ちになると、(感覚が)鈍りますからね。好きなコトして、周りにイエスマンしかいなくて、褒められてばかりになっちゃう。だからどんな映画になってるんだろうと思ったら、逆に意欲作と言うか非常にアートに振っていて驚きました。
ジョン・カサヴェテス(※1)へのオマージュ丸出しですよね。アンジーは大女優になりたいんじゃないかな。

(※1)1929年12月9日―1989年2月3日。「インディペンデント映画の父」の異名をとるアメリカ人映画監督。人間の普遍的な感情、心の機微を描き出した作品は、ハリウッドやインディーズの垣根を越え、世界の監督たちに影響を与えている。

MC カサヴェテスの奥さんはジーナ・ローランズという女優で、彼女を主演にした『こわれゆく女』という映画を撮っています。
アンジーはまさにその奥さんのジーナ・ローランズにこの『白い帽子の女』を見てほしいということで、プレミアに呼んだそうです。湯山さんがおっしゃる通り、もろに影響を受けていますよね。

湯山 そうそう。この作品は、アンジーの顔をずっと映していますよね。表情だけで持たせている。ネタバレになっちゃうけど、妻ヴァネッサはある過去を抱えていて、しょうがないないなということがわかるわけですけど、この人かなりおかしい人でしょ? それまで理由はわからないけど表情の影を追っていくんですけど、これはジーナ・ローランズが得意としたことですよね。
人間の表面だけでなく奥底の真相みたいなものを、表情ひとつでこちらに感じさせる。つまり絵画みたいなもんだよね。こっちが勝手に感じ取っていくわけですから、それに挑戦していますよね。

 あんまりジーナ先生とくらべるのもな……という感じですけど、ハリウッドで活躍するアンジーのイメージがあるから、それを消すのに映画の前半を使ってるんじゃないかな。でも結果的にイメージを消すことに成功してますよね、完全に。

MC やっぱりアンジーと言えば、『トゥームレイダー』のイメージがありますからね。


湯山 そうそう。あと「国連」っていう感じ。アンジー、イコール国連っていうイメージを背負っているからね。キムタクが映画に出るのが大変なのと同じというか。

MC 何を演じてもキムタク、みたいなことを言われちゃいますよね。

湯山 そうだよね。でもこの作品に関しては、私はそうは思わなかったです。今回は“顔力”がすごいですよね。

 あと、アンジーがお風呂に入っているシーンで、ヌードになっていましたけど、すごく痩せてるじゃないですか。あのゾッとする綺麗さっていうのは、男にとってはちょっとブリジット・バルドー(※2)みたいな感じかもしれないですよね。フランスの小説家で映画監督のマルグリット・デュラス が「ブリジット・バルドーは男にとって悪夢だ」って言ってましたけど、そんな感覚だよね。バルドー感と言うか、ほんと綺麗だもんね。ハリウッド女優なんだけど、圧倒的なファムファタール(魔性の女)だよね。『17歳のカルテ』のときに、手首の傷が似合いそうな、線の細いキリキリした感じの人だなぁと思ったんだけど、きっとそれがこの人の本質かもね。

(※2)1950年代に活躍したフランスの女優。セックスシンボルとして称えられ、「フランスのマリリン・モンロー」と形容されることもある。私生活では“悪女”と呼ばれることもあり、波乱に満ちた人生を送ったことでも知られている。

MC 宣伝でいっぱい写真が届くんですけど、どれを見ても本当に絵になると言うか、やっぱりすごいなと思いましたね。改めて普通の女優さんとは違うオーラがやっぱりある感じがしました。

湯山 アンジーもですが、ブラピも稀有な俳優ですよね。私どうも三浦友和に思えるんだよね。学校の時にクラスで一番モテる子の感じ。全米の高校で一番チョコレートをもらう子を 全部足して割るとブラピになる、みたいな。なんか本当に片寄らず中正、中庸の中庸なんですよね。作家の役ですけど、本当にこういう人いるよね、みたいな。深いところまで降りていけない中庸の人。ブラピに個性がないからこそ、女には理解できない一般的な男のイメージに消化されているのがいい。この人がもうちょっと繊細モードだったら違う方向にいくと思うんですが。

MC ブラピってマスコミの試写でもすごい優しいんですよね。映画の中でも、理解できないんだけど全部受け止めてあげる、みたいな。それがすごく素敵だったと言うか、私生活でも重なるじゃないですか。アンジーは好き勝手にこういう映画を撮るし、イギリスの大学の客員教授にも決まったみたいですからね。ブラピはやりたいことをやっている妻を優しくサポートをしていますよね。

湯山 男の人には珍しく安定している人だよね。普通、男って安定しないじゃない? でも、プラピは安定しているから、なんか落ち着くと言うか、女子的には面倒くさくない感じがします。

MC 今回の映画でいい感じにそれが出ていますよね。メイキング映像でアンジーがブラピに、「それさっきもやったわよ。違うわよ」って言われているシーンとかもあって、ブラピが「あーごめん」みたいな。夫婦関係が垣間見られるというか、2人ってそんな感じなんだって思いました(笑)。

 では、最後に湯山さんが考える映画の見どころについて教えてください。

湯山 女優の顔でどこまでいけるか、スターの演技ですよね。“スターのイメージがある女優”の演技というものが、どこまでいけるのかこの映画の見どころではないでしょうか。

 夫婦として最後の共演になるかもしれない『白い帽子の女』。奇しくも2人の不和を予見させるような(?)物語だが、プライベート映像を含む特別映像では、ベッドの上で笑い合ったり、変顔をしたりと仲睦まじい2人の様子が収められている。映画の撮影からおよそ2年、「圧倒的なファムファタール、アンジー」と「中庸なブラピ」の関係にどんな変化があったのだろうか……。
(末吉陽子)

『白い帽子の女』公開中
監督・脚本・製作:アンジェリーナ・ジョリー・ピット
製作・ブラッド・ピット 撮影:クリスティアン・ベルガー 音楽:ガブリエル・ヤレド
出演:ブラッド・ピット、アンジェリーナ・ジョリー・ピット、メラニー・ロラン、メルヴィル・プポー、ニエル・アレストリュプ、リシャール・ボーランジェ
2015年/アメリカ/122分/配給:ビターズ・エンド、パルコ R15+
(c)2015 UNIVERSAL STUDIOS

※画像は湯山玲子氏