深夜の飯テロ番組も、いよいよ第7話。今シーズンもイカしたメシ屋が次々と登場し、足を運んでみたくなっている人も多いのではないでしょうか。

とはいえ、これまでのシーズンで放送された店もいまだに、番組の余波で大混雑。空いてから出かけたほうがよいのですが、タイミングが難しいものですね。

 ともあれ、この番組を通して学ぶのは、見知らぬメシ屋に入るとき、まずスマホで口コミ情報を探すというクセはやめたほうがいいということ。飽くなきチャレンジ精神こそが『孤独のグルメ』を楽しむ上で、もっとも重要なのだと思う次第です。

 さて、今回ゴローちゃんこと井之頭五郎(松重豊)が商談にやってきたのは、なんかちょっと悪そうなヤツらが揃っている地下のクラブ。

「うわ、うるさいな……」

 慣れない空間に、引き気味のゴローちゃん。


「すいませーん」

 大きな声がよく通ること。そりゃ、松重ゴローちゃん。芸歴が長いですからね。

 今回の依頼主は、窪塚俊介。クラブの内装を変えたいということで相談なんですが、なぜゴローちゃんに依頼をしようとしたのでしょう。

「エモい」とかいう、聞き慣れない単語に、慣れないテンション。
おまけに提示された予算に「ちょっと~」というしかありません。

 おまけに、予算を聞けば微妙にオラオラな感じで「渋谷イチのクラブにしたい」と言ってくるではありませんか。「いや、その額で渋谷イチって……」と、思いはすれども、断りづらいゴローちゃん。自営業者なんだから、ダメなものはダメといわねば、損をするばかりじゃないですか。なにやってんのよ!!

 そんなことを思っていたら、場面は転換。

 店を出たゴローちゃんが会話してるのは、紹介者。
ああ、人の紹介だと断りづらいものですよねえ。おまけに紹介者から「無理だったら、私から断りをいれますんで~」だって。そんなことを言われたら、余計に断りづらいではありませんか。

「案外、純粋でいいやつだとわかるんだが、なんだか同じ地面で話ができない……」

 おや、今回のシナリオは冒頭から尖ったセリフが飛び出す。これも、クラブの効果でしょうか。

 かくて、いつものように店を探し始めたゴローちゃん。


「俺がザザっと飯を入れていく店って、もうこの街にはないのか」
「渋谷、もう来るとこじゃないのかな」

 おお、原作でも渋谷に出てきたゴローちゃんが漏らした名ゼリフが登場。谷口ジロー先生ならではの、独特の哀愁ある中年でなくてはサマにならないセリフ。松重ゴローちゃんも、こういうセリフは上手いですよね!!

 ついに諦めかけたゴローちゃん。

「このあと、浜田山だから……」

 いや、元・浜田山住人の筆者ですけど。いったい浜田山で何を食べろというのでしょう。お願いだから、それだけはやめようよ。


 と、ここでゴローちゃんが思い出す昔の素敵な食事の記憶。

「百軒店に餃子と焼きそばの美味い店があったな……まだあるかな」

 ああ、絶対にないよ。ゴローちゃん。かつての美味しい店はすべて記憶の彼方に。失敗が見えるゆえにか、泣いてしまうようなシーンです。

 と、腹が減っているはずなのに「こんな路地あったけ」と路地に迷い込むゴローちゃん。


 ふと見つけたのは、長崎飯店。名前の通り、ちゃんぽんの店。ご存じの人も多いですが、渋谷のほか、麹町や虎ノ門にもある東京で、本物のちゃんぽんを食べることができる名店です。

「およそ今どきの企業家がつける店名ではない。俺が歩いていた昔の渋谷だ」

 ゴローちゃんの歩いていた渋谷とは、いつ頃のことを指しているのでしょうか。年代からすると合コンで賑わったバブル時代なのでしょうけど。確かに現在よりも、こんな雰囲気の個人商店は多かったハズ。

 一気にお店を気に入ったゴローちゃん。ここで不穏なセリフが。

「いいなあ長崎ちゃんぽん。餃子に春巻きもある」

 うむ。長崎ちゃんぽんは具材の多さゆえに、サイドメニューを頼むと満腹MAXになってしまう料理。まあ、ゴローちゃんの胃袋ならば安心でしょう。

 百軒店はまた今度として、入店。活気のある店内で女将を演じるのは川上麻衣子。まずは、相席が基本のルールに、戸惑いながらも納得するゴローちゃん。

「ちゃんぽん、皿うどん。気絶するほど悩ましい……」

 なるほど、長崎の人でもなければ、あまり食べる機会のないメニュー。いざとなれば、悩むのも納得です。

「あのパリパリの麺にたっぷり酢をかけて食べる皿うどん……」

「でも、ちゃんぽんスープのあのコクもめくるめく美味さなんだよなあ……」

 しかもこの店、皿うどんには硬い麺と柔らかい麺を用意しているので、悩みは増えます。

 悩んで、やわ麺を注文するゴローちゃんですが、ほかの客がカタ焼きソバを注文するのを聞き「思いのほか、硬派な店だったか」と、すかさず春巻きも追加。パリパリの食感も同時に味わおうという趣好ですね。

 さて、定番の調理中のワンカットを経て運ばれてくる、皿うどん。

「このとろみ、とろみから立ち上る湯気、たまらん」

 いや、これはマジに美味そう。ああ、深夜に皿うどんを食べられる店がないのが悔しい。

「まずは、そのままいってみよう……おお、重い」

 しっかりした太麺の感触を箸で味わいすすれば「美味い……初めて食ったけど、これはいい。麺がメチャクチャ美味いぞ……」。

 とにかく「美味い」と「うーん」の少ない言葉で、美味さを視聴者に伝えようとするゴローちゃん。「おこげ」「いか」「あさり」とポツリと呟いたり、絶妙な言葉のセレクトで美味さを伝えてくるのです。

「皿の中の有明海は豊漁だ」

 と、ここで「一度仕掛けてみるか」と、卓上の調味料に手が伸びます。

「ベースの味がいいから、かけ過ぎは禁物だ」

 そういいながら、選ぶのはカラシに酢です。

「おう、グッと皿うどんらしくなった」

 食欲をそそる調味料の代表格ともいえる酢。

「もうちょっとかけても許されるんじゃないだろうか」

 と、さらにぶっかけ堪能するゴローちゃん。

 そこで挿入されるのは、具材に牡蠣が入っている喜び。でも、そこに安っぽいカマボコが入っているからこそ、さらに食欲はそそられるのです。

 そんなゴローちゃんの食べっぷり劇場に、今回は周囲の客の食べっぷりをワンカット挿入。「美味そうな音させやがるなあ……」と、なぜか対抗心を燃やすゴローちゃん。

 お次は、いよいよ春巻きの登場です。
 
「きたきたぁ、俺のパリパリ……」

「ふふっ、一人回転テーブル」

 なぜか子どもみたいに、調味料の回転部分を回しただけでうれしい、かわいいゴローちゃん。

 しっかり吟味した調味料をつけて食べる春巻は、やっぱり最高。

「口の中にスプリングトルネードが巻き起こっていく」

「数あるメニューの中から春巻きを見つけ出し、久しぶりに食う皿うどんに合わせる。これ以上にないオーダーだったんじゃないか」

 何やら、いつも以上に満足度の高いゴローちゃん。でも、まだここまで放送時間は18分。残りの時間になにが起こるのか。さらに、期待は高まります。

 突如挿入されるのは、別のテーブルの客の会話。

「えっソースかけるんですか?」
「知らないの? 長崎じゃフツーだから」

 ゴローちゃんに食のタブーはありません。さっそく試すゴローちゃん。

「長崎うまかー!!」

 と、ソースをかけまくっていると、川上が「甘くて美味しいですよ」と長崎のソースを出してくるのです。

「お、長崎ソースいいじゃないか、めちゃくちゃ美味い。皿うどんを選んだ俺、でかした」

 一気にかきこむ残りの皿うどん。

「俺は、こんな店が好きなんだ」

 ノスタルジックな言葉を呟き、満足するゴローちゃん。

 でも、やっぱり俺たちのゴローちゃんは違った。別のテーブルから聞こえる「ちゃんぽん美味しかった」の声。

「おかわりちゃんぽん、いってみよう!」

 麺少なめで注文したとはいえ、皿うどんに春巻きを食べた上に、結局ちゃんぽんも注文してしまうゴローちゃん。

「一度は諦めた、このスープ」

「いい、すごくいい……」

「そうだよ、これだよこれ……一度は諦めたこの味……」

 感動の上に感動を感じるゴローちゃん。「ならば本気モードでいこう」と、一気食い。

「追いちゃんぽんを追加したのは正解だ……」

「俺は今日、ちゃんぽんのことを本気で好きになってしまった」

 まさかと思いましたが、皿うどんとちゃんぽんの同時食いをこなしてくれたゴローちゃん。いやいや、やはり『孤独のグルメ』の真髄は、食い過ぎだろ~と呆れるほどの食べっぷり。ヘルシー志向とか、糖質制限などとかいう、草食系な言葉には踊らされぬゴローちゃんの、硬派な精神世界を見習わなくてはならぬと、思いました。
(文=昼間たかし